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日本では、うつ病の患者数が100万人を超える。治療は、認知行動療法などの精神療法と薬物療法が主だが、薬の効かない患者が3割に上るという。そうした患者に有効な新しい治療として期待されるのが、脳に磁気刺激を与える「反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)」だ。すでに欧米ではうつ病の一般的な治療として普及しており、日本でも2019年に保険適用が始まっている。
うつ病の新治療として期待されている反復経頭蓋磁気刺激(鬼頭伸輔医師提供)
▽磁気で脳を刺激
うつ病になると、思考力や判断力が低下する、意欲が持てない、悲観的な考えにとらわれるといった症状が表れる。実はこのとき、脳の活動にはバランスの乱れが生じているという。東京慈恵会医科大学付属病院(東京都港区)精神神経科の鬼頭伸輔診療医長は「思考や判断、意欲に関わる脳の背外側前頭前野という部分の活動が低下し、感情をつかさどる脳活動が過剰になっています。つまり、感情の動きが大きくなる一方、それを理性的にコントロールする働きが弱まるため、悲観的な考えや憂鬱(ゆううつ)な気持ちが強くなってしまうのです」と説明する。
rTMSで特定の周波数と頻度の磁気刺激を脳に与えると、その部位の脳活動を促進したり、反対に抑制したりできることが分かっている。それによって、脳に生じたバランスの乱れを正し、うつ症状を改善させる。
抗うつ薬の効果が出にくいうつ病患者を対象に、薬と併用で4~6週間のrTMSを実施した臨床試験では、35.7%の患者がうつ病の症状がほぼ消える「寛解」に至った。海外の試験成績も同様で、およそ3~4割が寛解している。「うつ病で薬の効果が得られない場合、薬の種類を変えますが、最初の薬剤で寛解に至る確率が約37%であるのに対し、2剤目の寛解率は約19%、3剤目以降は1桁に低下します。また、抗うつ薬の副作用を心配する人は多いため、rTMSは新たな治療として期待されているのです」と鬼頭診療医長。
▽意欲や関心の回復
1回の治療にかかる時間は40分程度。刺激部位に軽い痛みや不快感を覚えることもあるが、ほとんどの人がすぐに慣れるという。週5回の通院、4~6週間の継続が標準的な治療となる。「早い人だと1~2週目から効果が表れます。例えば、通院の帰り道、ふと本屋に寄ってみる気になったなど、意欲や関心の回復が認められます。10年来、何度もうつ病を再発していたにもかかわらず、劇的に改善した例もあります」
なお、rTMSは19年6月に保険適用になったが、保険診療で治療できる医療機関は、現状では一部の大学病院などに限られている。鬼頭診療医長は「実施可能な施設が拡大されることが望まれます」と語っている。(メディアディカルトリビューン=時事)
(2020/04/09 11:29)
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