医学生のフィールド

「もっと医療は効率化できる」と認識を
VR活用のイノベーター、杉本真樹医師【医学生インタビュー】

 手術室で患者の腹部に、本人の臓器の3次元(3D)画像がホログラムのように鮮やかに映し出され、解剖や手術の手順がひと目で分かる。杉本真樹医師が最高執行責任者(COO)を務める「Holoeyes(ホロアイズ)」(東京都港区)が開発した医療サービスは、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像診断)の検査で得られたデータから仮想現実(VR=バーチャルリアリティー)をつくり出し、医療現場を支援するコミュニケーションツールだ。

 このサービスを提供する最新のソフトウエアは今年2月、医薬品医療機器法(薬機法)の管理医療機器(クラスⅡ)認証を取得した。最先端医療技術開発のトップランナーの一人である杉本医師に、筑波大学医学類5年生中山碩人(ひろと)さんと順天堂大学医学部5年松原颯さんが話を聞いた。(構成・稲垣麻里子)

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 ―VRなどのXR(Extended reality)を医療に活用する技術は先進的ですが、もともとその分野に興味があったのでしょうか。

 私はよく物事を考える場合、その全体像をまず考えます。情報を得るのにパソコンを使うのは人間だけ。そのパソコン画面は、四角くて薄くて平面。情報を平面に落とし込んで見るのは、自然界では実は不自然です。そこでもっと情報を自然に捉えたいと思って、昔は3Dの赤青メガネの右目左目で分けて見ていました。

 昨今、XRが普及したのはデバイス、つまりゴーグルが安く手に入るようになったからです。VRゴーグルはスマホの技術が利用されています。通信してデータを共有できるようになってから、VRが一気に身近なものになりました。

 そこで検査や手術をするときに臓器を本来の姿である立体で見ることができないかと試行錯誤し、VRゴーグルで利用できるアプリの開発をすれば、実現できると確信したのです。(CTなどで)平面化された情報をXR技術によって本来の立体に戻しているので、本来の姿なのです。

 ◇炭酸ガス造影で3D画像求め、無料公開ソフトと出合う

 ―どんな医療現場で、臓器を立体的に見る必要性に迫られたのですか。

 まず私の専門分野である胆管や膵臓の手術の前に、異常を調べるため口から内視鏡を入れて造影剤を注入するERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造影)という検査を行っていましたが、一定の確率で膵炎などの偶発症を発症することが知られていて、重症化すると死に至るという問題がありました。

 大学院に入ってまもなく、ERCP検査の後に重症膵炎で亡くなった患者がいました。そこで、厚生労働省の重症膵炎に対するプロジェクトに参加し、ERCP検査に代わる検査方法を模索しました。そのとき、人間にとって害がなく、かつ精細な造影効果が得られるものとして二酸化炭素に注目し、動物実験を繰り返してその造影効果と安全性を証明しました。しかも安価で痛みがなく患者さんにも優しい。その後、検討を重ねて国内で発表してもあまり受け入れられませんでしたが、アメリカの学会で発表すると、特殊性よりも公共性に意義があると高評価をいただき、それを踏まえて日本でも認められていきました。

 ただ、この二酸化炭素で膵胆管を造影する方法(炭酸ガス造影)は、2Dの画像では二酸化炭素が入った胆管と膵管がきれいに見えず、自分で3D画像の再構築をしなければなりませんでした。そこでスイス・ジュネーブ大学の放射線科の医師がCTやMRIなどの医用画像を3D表示する「OsiriX(オザイリクス)」というソフトをMac用に無料で公開していたのを見つけました。

 ―無料で公開していたのですか。

 正直驚きましたね。彼らはインタビュー記事で「このソフトは自分たちの業務を改善するために作ったもので、もうけるためではない。医師として社会に貢献するのは当然だ」と話していました。その理念に感動しました。早速、放射線技師に頼んでデータをCD-Rに書き込んでもらい、自分で3D構築する方法を一緒に研究しました。最適な方法が確立した後、学会や研究会で発表したところ、どんどん仲間が増えていきました。

 帝京大学ちば総合医療センター(2004~08年に勤務)で実績が出てからは、共同研究の依頼も増え、学会や財団の助成金も頂けたので、さらに本格的に成果を出さなければいけないと思いました。

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