医学生のフィールド

「もっと医療は効率化できる」と認識を
VR活用のイノベーター、杉本真樹医師【医学生インタビュー】

 ◇ソフト開発の社会へのインパクトを米国で実感

 杉本真樹医師
 当時の杉本医師は「本格的に成果を出さなければいけない」と思いながら、今度は「日本の学会で成果発表をしても、世界では評価されないというジレンマを感じた」という。そこから2016年にHoloeyesを共同創業し、「医療VR」のサービスを開発して今日に至るまでに、どのような経緯があったのか。

 ―素晴らしい研究成果を出しても、十分評価されないことがあるのですね。転機は何ですか。

 アメリカの北米放射線学会(RSNA)で発表する機会があったんです。そこにOsiriXの開発者がいて「これはすごい」と認めてくれました。さらにアップルのヘルスケア事業の担当者から「ぜひアップルのホームページで紹介したいから、取材させてくれ」という話になりました。バックグラウンドうんぬんではなく、実績を評価された瞬間はとてもうれしかったです。

 ―海外進出の大きな一歩となったのですね。

 それと同時に、「米スタンフォード大学の内視鏡科の医師も私の研究に興味を持っている」と紹介され、この医師が来日した際に大学へ見学に来ました。そこでOsiriXで3次元の臓器をプロジェクターを使って腹部に投影して手術する様子や、3D医用画像アプリなどを紹介したところ、「ぜひスタンフォードと退役軍人局病院で一緒にやりたい」と誘っていただいたのです。

 ―そこで、留学へと旅立つことになったのですね。アメリカで学んだことを教えてください。

 留学先であるシリコンバレーでは、メディカル分野の研究と企業をつなぐエコシステムが確立していて、特に成果を出しているスタンフォード大学のプロジェクトを知り、ソフトウエア開発が社会にもたらすインパクトの大きさを知ったんです。

 多くの医師で起業家である人々にも出会い、「医師はもっと社会やビジネスに貢献するべきだ」というアドバイスを頂きました。「例えば8時間の手術で治せる人は、その手術を受けている患者一人だけ。でも8時間の間に多くの医者に対して何かできれば、その医者がもっとたくさんの命を助ける」と助言されました。それからは、ソフトウエアやIT、起業や医療ビジネスなどに興味を持つようになりました。「これからはデジタルやテクノロジーを医療に活用していくことが重要だ」と実感したのです。

 ◇体験を共有して経験に、教育でも活躍するXR技術

 

 松原颯さん
 ―より多くの命を救うための仕組みづくりですね。今後XR技術はさらに身近なものになるのでしょうか。

 XRはすでに身近になっています。一番簡単なのはスマホとアプリですね。100円から買えるアプリもたくさんあります。VRやXRが体験できるゴーグルやグラスなども一般的になっているので、学生の頃から興味を持っておくといいと思っています。

 ―若い医師や学生へメッセージをお願いします。

 Holoeyesは、学生を対象としたXRの体験会やインターンシップなどをやっています。XR技術の良いところは、体験そのものを共有できることなんです。例えば手術の技術を覚える際も、実際に体を動かして体験したり立体的に見てみることで、体験を積み重ね、経験に変えることもできます。

 人間の記憶力は、物事を情報として網目のように関連付けた方が覚えやすく思い出しやすいのです。文字や絵だけだと、どうしても限界がある。そこで体を動かしたり実際に体験したり、体験したことを話し合ったりすることで経験として記憶できるようになるんです。

 ―ベテラン医師の技術も、XR技術で擬似体験することで理解が深まりそうですね。今後の医学教育でこの技術がどんどん使われてほしいと感じました。貴重なお話、ありがとうございました。(了)

 患者CTから作成した臓器のホログラフィーをMRデバイスで確認し手術を支援(杉本医師提供)
 ■杉本真樹氏(すぎもと・まき) 1971年生まれ。医師・医学博士。帝京大学沖永総合研究所特任教授。Holoeyes社共同創業者・COO。医療画像解析、XR(V R/AR=拡張現実/MR=複合現実の総称)技術、手術支援システム、3Dプリンターによる生体質感造形など最先端医療技術開発のトップランナーとして国内外で活躍の場を広げている。(了)


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