医学生のフィールド

「inochi WAKAZO Forum 2022」3年ぶりの会場開催~「心不全」をテーマに解決策を競う~

 学生がヘルスケア課題の解決に取り組み、命の大切さに向き合うイベント「inochi WAKAZO Forum 2022」が11月20日に開催された。

 主催した一般社団法人inochi未来プロジェクトは「みんなでinochiの大切さと未来について考え、行動する」を掲げ、大阪・関西万博を契機に健康・医療イノベーションに取り組む団体。「inochi WAKAZO Forum」は同プロジェクトの学生支部である「inochi WAKAZO Project」との共催で2014年から開催されており、今年度は3年ぶりに会場を設けYouTube配信とのハイブリッド開催となった。当日は中高生の保護者や後援企業の関係者など約50人が来場し、発表を見守った。(YouTubeでの配信は現在もアーカイブ視聴が可能となっている

 第1部のメインは、中高生がヘルスケアの課題解決に取り組む「inochi Gakusei Innovators’ Program」の成果発表としてプレゼンテーションが行われた。「inochi Gakusei Innovators’ Program」は14年に関西で始まり、その後、関東、四国、北陸、九州へと拡大し全国規模となった。今年度は「心不全パンデミック」(四国は「腰痛」)をテーマに、約4カ月間にわたって50(約180人)を超える中高生チームがヘルスケア課題の学習や解決プログラムに取り組んだ。当日は優れたプランで各地域の選考を勝ち抜いた4チームと敗者復活で選ばれた2チーム、計6チームが登壇した。

 本プログラムでの課題解決アイデアは、医療従事者や患者などステークホルダーへのヒアリングや実証実験に基づいており、単なるアイデアにとどまらず社会実装を視野に入れた具体性が特徴である。今年度も各チームは設定した課題について、医療現場や患者の声を取り込みながら中高生ならではの柔軟な発想で解決策を提示した。製品化に向けた試作品の製作を進めるチームや、企業・医療機関と実証実験を行ったチームもあり、「心不全」という中高生とは距離のある難解なテーマながら、科学的なプロセスの確かさや社会実装に向けた行動力が光った。

 また、各チームの巧みなプレゼンテーションにも注目が集まった。思わず引き込まれるトークやスライド、会場を巻き込んでの中高生の進行には、審査員の先生方も「内容はもちろんですけども、まずプレゼンがめちゃくちゃうまいです!」と驚きの声が上がるレベル。ダイレクトな熱意が会場を包み、大いに盛り上がった。

優勝した北陸代表の中学生チーム “ascend”

 優勝したのは北陸代表の中学生チーム “ascend”(金沢大学附属中学校)。ショッピングセンターで歩行速度を計測し運動不足や息切れの評価を行うという生活に密着した社会実装しやすいアイデアと、見ごたえのあるプレゼンテーションが審査員や視聴者から高い評価を受けた。中学生チームの優勝は初となった。

[出場校]
神戸女学院高等学部(兵庫県)
清風南海高等学校(大阪府)

昭和女子大学附属昭和高等学校(東京都)
豊島岡女子学園高等学校/ 大妻高等学校(東京都)
金沢大学附属中学校(石川県)
福岡県立修悠館高等学校(福岡県)
徳島市立高等学校(徳島県)
[審査員]
鈴木寛先生    東京大学教授/慶應義塾大学教授, inochi未来プロジェクト理事
八木雅和先生    大阪大学寄附講座准教授
池野文昭先生    Program Doctor, Stanford Biodesign Advisory Director, Japan Biodesign
岩宮貴紘様    株式会社メトセラ代表取締役
小林正宜先生    KISA2隊 大阪隊長

 第1部と第2部をつなぐのは、「誰もがいのちを守り合う、新たな未来を創造する」を掲げるプロジェクト、WAKAZO代表によるプレゼンテーション。ヘルスケアデータを収集し社会に還元することで市民がお互いにいのちを守り合う社会を目指す取り組み、「inochiのペイフォワード」について紹介が行われた。実証実験段階まで進んでいるとのことで、今後の展開が期待される。さらに万博期間中の取り組みとして、世界中の若者が集い価値観やアイデアを共有するスペース “WAKAZO BASE”、そして若者の若者による若者のための催事 “WAKAZO ANOTHER WORLD”、この2点について企画構想が紹介された。

 第2部のメインはパネルディスカッション。テーマは“LAST WORDS”、「あなたが最期に残したい言葉は何か?」、誰もがいつかは直面する“死”と向き合い、そこから生を考えるというコンセプトだ。壇上の医療者・専門家・学生から三者三様の意見が飛び交う中、注目を集めたのが学生登壇者である飯塚さんの「やっと死ねる」という言葉。高校時代に難病を告げられ死を意識した経験から、死を前に「やっと」と思えるほど生きている間に何かを燃やし尽くしたいと語った。また、同じく学生として登壇した北野氏が挙げた言葉は「かわいい」。「死を考えること自体が怖い、“かわいい”何かに見とれて全てを忘れている間に気付いたら死んでいたい」という率直で赤裸々な思いが印象的であった。

 “死”に対する思いはさまざまであり、決して若者だからと軽んじられるものではない。自分の“LAST WORDS”とは何なのか、筆者自身が死とどう向き合っていくのかを考えさせられるディスカッションであった。

パネルディスカッションの様子。登壇者はボードに “LAST WORDS”を書き、その思いや背景とともに発表した

 [登壇者]
鈴木寛先生 東京大学教授, 慶応大学教授,inochi未来プロジェクト理事
澤芳樹先生 大阪警察病院院長, inochi未来プロジェクト理事長
堺井啓公様 日本博覧会協会機運醸成局長
福原志保様 バイオアーティスト, 研究者, 開発者
山川みやえ様 大阪大学医学系研究科看護実践開発科学講座
飯塚遼馬       立命館大学政経学部政経学科1年, WAKAZO代表
北野幸一郎 京都府立医科大学医学部医学科2年, inochi WAKAZO Project全体代表

 エンディングの万博企画では博覧会協会機運醸成局の堺井局長と万博公式キャラクターミャクミャクが登壇。同プロジェクトを創り上げてきた過去の学生、現在活動に参加している学生、そしてこれから活動に参加する全ての学生が、レガシーとして思いを受け継ぎ、未来社会創造に向け力を尽くすことを宣言した。

宣言書の受け渡しの様子。右からミャクミャク、堺井機運醸成局、学生代表の2人

 ヘルスケアの課題解決で障壁になりがちな「既存の壁」。今回のフォーラムは、その壁を軽々と越えていく中高生の素直な発想とずばぬけた行動力、高度なプレゼンテーションで熱く盛り上がった。代表に選ばれなかった各チームの参加者も、4カ月間の取り組みはこれからの人生の糧となり、また、わが国の医療福祉に何らかの形で寄与するであろう。同時に、公私ともに多忙な大学生が運営や各チームのメンターとして“自分のため”ではなく“誰かのため”に活動していることも、本プログラムの大きな魅力になっている。

 医療者だけでなく社会全体が健康について考え、いのちに向き合う重要性を訴える本プログラム。次年度以降も多くの中高生、大学生の参加が期待される。

イベント終了後の集合写真

<開催概要>
【名称】 inochi WAKAZO Forum 2022
【主催】一般社団法人inochi未来プロジェクト、inochi WAKAZO Project
【会場】中之島フェスティバルタワー・ウェスト4F 中之島会館
      〒530-0005 大阪市北区中之島三丁目2番4号
【日程】 2022年11月20日(日)時間 13:00~18:30
【主催】 一般社団法人inochi未来プロジェクト
YouTubeアーカイブリンク(11月27日現在1800回再生)

文:中西響生(京都大学法学部3年)

医学生のフィールド