2024/11/05 16:00
オイシックス・ラ・大地、東京慈恵医科大と共同臨床研究を開始
がん治療の化学療法時における、食事支援サービスの効果を研究
(ポイント)
● 重症うつ病に効果が高い第一世代抗うつ薬の抗うつ作用に、リゾホスファチジン酸(LPA)受容体が関与していることを明らかにしました
● 第一世代抗うつ薬はLPA1受容体作動薬として働くことをうつ病モデルマウスを用いて明らかにしました
● バイアス型の特徴を有するLPA1受容体作動薬が新しい治療薬の創薬標的として期待されます
(概要説明)
東京慈恵会医科大学の宮野加奈子特任准教授、上園保仁特任教授、熊本大学大学院生命科学研究部の竹林実教授、梶谷直人特任助教、国立病院機構呉医療センターの岡田麻美研究員、東京大学の青木淳賢教授、東北大学の井上飛鳥教授らの研究グループは、共同研究により第一世代抗うつ薬がLPA1受容体バイアス型作動薬として働き、抗うつ作用に関与することをうつ病モデルマウスを用いて明らかにしました。重症うつ病患者には、現在臨床で最もよく使用されている第三世代抗うつ薬よりも第一世代抗うつ薬の方が重症例に治療効果が高く、そのメカニズムは不明でした。本研究成果により、第一世代抗うつ薬の高い治療効果を説明する可能性のある新たな薬理作用を示すことができました。今後、LPA1受容体バイアス型作動薬が新しい治療薬の創薬標的として期待されます。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金、科学技術振興機構、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、先進医薬研究振興財団、武田科学財団助成の支援を受けており、研究成果は科学雑誌「Neuropsychopharmacology」のオンライン版に令和5年9月6日に掲載されました。
(説明)
[背景]
うつ病は、長期間にわたって多大な苦痛を与え社会機能を著しく低下させ、自殺の主な原因にもなっており、社会的損失が大きな疾患です。現在日本で使われている抗うつ薬は、モノアミン神経系(注1)に作用する薬物しかなく、これらの薬物治療では難治性の患者もいることから、これまでとは異なった薬理作用を持った抗うつ薬の開発が望まれていました。
抗うつ薬は、1950年代に抗うつ作用があることが歴史的に偶然発見された三環系抗うつ薬を第一世代として、モノアミン神経系を活性化する作用に着目して開発されてきました。現在臨床で主に使用されている第三世代抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)は、モノアミン作用に特異性を高めており、第一世代抗うつ薬よりも副作用が少なく使い易い抗うつ薬です。しかし、入院が必要な重症うつ病患者には第一世代抗うつ薬の方が治療上有効とされており、第一世代抗うつ薬にはモノアミン以外にも治療効果に関与する薬理作用が存在する可能性が考えられていました。
[研究の内容]
我々がすでに抗うつ薬との作用点の一つとして見出したLPA1受容体に着目して、複数の種類の抗うつ薬を用いてLPA1受容体に作用するか検討を行いました。その結果、第一世代抗うつ薬には共通してLPA1受容体を活性化する作用があることを明らかにしました。一方で、第三世代抗うつ薬にはLPA1受容体の活性はほとんど見られませんでした。(図1)
LPA1受容体はGタンパク質共役型受容体(注2)の一つであり、通常この受容体が活性化すると、細胞内でGタンパク質および・アレスチンへシグナル(注3)を伝達し、それぞれ異なった作用を引き起こします。そこで、第一世代抗うつ薬について、LPA1受容体の細胞内シグナルを詳細に調べたところ、アレスチンのシグナルに比べ、Gタンパク質のシグナルに偏って活性化するバイアス型作動薬(注4)であると判明しました。(図1、2)
さらに、LPA1受容体バイアス型作動薬が抗うつ作用に重要であるか調べるため、マウスを用いた行動実験を行いました。その結果、同じLPA1受容体作動薬でも、バイアス型作動薬では抗うつ薬と同様に抗うつ作用が見られましたが、非バイアス型(バランス型)作動薬では抗うつ作用は見られませんでした。従って、LPA1受容体バイアス型作動薬が抗うつ作用に重要であることが明らかとなりました。
[今後の展開]
第一世代抗うつ薬がなぜ第三世代抗うつ薬よりも治療効果が高いのかという疑問を説明する一つの可能性として、LPA1受容体バイアス型作動薬としての薬理作用が存在することを示すことが出来ました(図3)。
第一世代抗うつ薬自体は、副作用も強く臨床での使用が限られています。今後、第一世代抗うつ薬で問題とされる副作用のないLPA1受容体バイアス型作動活性のある治療薬を開発することで、これまでの薬物治療では難治性のうつ病患者に対する新たな治療につながることが期待されます。
[用語解説]
注1 モノアミン神経
モノアミンとはアミノ基を1個有する化学構造をした神経伝達物質の総称。代表的なモノアミンとして、ノルアドレナリンやセロトニンがある。これらモノアミンを神経伝達物質として利用する神経をモノアミン神経と呼ぶ。
注2 Gタンパク質共役型受容体
細胞膜に発現するタンパク質の一つ。細胞外から作動薬が結合することで、細胞内にシグナルを伝達する受容体としての役割を持つ。通常、作動薬がこの受容体に結合することで、細胞内では主に、Gタンパク質および・アレスチンと呼ばれる二つのタンパク質が活性化され、それぞれ異なる作用を誘導する。
注3 シグナル
Gタンパク質共役型受容体を介して細胞内で起こる生理作用をつなぐ細胞内プロセスのこと。主に、Gタンパク質および・アレスチンによって担われている。
注4 バイアス型作動薬
Gタンパク質共役型受容体を活性化させる化合物のうち、特定の細胞内シグナルのみを選択的に活性化させる化合物のこと。近年、Gタンパク質共役型受容体の複数の細胞内シグナルのうち、特定のシグナルが治療効果に関係する一方で、別のシグナルは副作用に関係することが示されており、副作用のない治療薬開発の新たな標的として、バイアス型作動薬が注目されている。
(論文情報)
論文名:G protein-biased LPAR1 agonism of prototypic antidepressants: Implication in the identification of novel therapeutic target for depression
著者:Naoto Kajitani+, Mami Okada-Tsuchioka+, Asuka Inoue, Kanako Miyano, Takeshi Masuda, Shuken Boku, Kazuya Iwamoto, Sumio Ohtsuki, Yasuhito Uezono, Junken Aoki & Minoru Takebayashi*
+共同筆頭著者、*責任著者
掲載誌:Neuropsychopharmacology
doi:https://doi.org/10.1038/s41386-023-01727-9
URL:https://www.nature.com/articles/s41386-023-01727-9#citeas
(2023/10/06 17:24)
2024/11/05 16:00
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