治療・予防

手足に力が入らない
~難病の慢性炎症性脱髄性多発根神経炎~

 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)という病気がある。末梢(まっしょう)神経の機能が損なわれる難病で、発症すると手足に力が入らなくなったり、しびれが生じたりする。患者数の少なさもあってあまり知られていないため、診断が下るまでに時間がかかる場合が少なくない。疑わしい症状があれば、神経内科を受診してほしい。

セミナーで講演した海田賢一(左)、鵜飼真美(右)の両氏とゲストの歌手・森口博子さん(5月、都内)

 ◇自己免疫が末梢神経攻撃

 この病気の患者・家族らでつくる「全国CIDPサポートグループ」の鵜飼真美理事長は、夫のタイ赴任に同行していた2004年、起床時に右手のしびれを感じた。現地の整形外科で手の神経が圧迫される病気だと診断され、手術を受けたものの、その後も左手に症状が出たり、歩行や階段の上り下りがつらくなったりするなど状態が悪化。急きょ帰国して大学病院で約1週間検査し、CIDPと分かった。手や足を思い通りに動かせず、例えば食事の際は「箸が持てなくなったほか、パスタをフォークで巻き取ったり、ヨーグルトのふたを開けたりできなくなった」という。

 神経細胞には軸索と呼ばれる1本の情報伝送経路があり、周囲を髄鞘(ずいしょう)という膜状の組織が覆っている。この髄鞘が炎症を起こして剝がれ落ち、情報がうまく伝わらなくなる。その結果、手足の筋力低下や感覚障害が生じ、日常生活に支障が出る事態に陥る。体を守るはずの免疫が誤って髄鞘を攻撃してしまうのが原因とみられている。

 ◇症状や治療の効き目に個人差

 埼玉医科大学総合医療センター脳神経内科の海田賢一教授(日本抹消神経学会理事長)は「初診時にはつえなどがないと歩けない人が3分の1ほどいる。髪が洗いにくい、ドライヤーを持ち上げにくいといった話も聞く」と語る。感覚障害では、しびれやピリピリ・チクチクする感じがあったり、熱さ・冷たさが分かりにくかったりする場合が多い。このほか「腱(けん)反射の低下・消失が見られる。疲れやすい、手が震える、物が二重に見えるといった症状を呈する人もいる」。

 症状の出方には個人差がある。左右の上肢、下肢ともに全体的に筋力が低下し、併せて2肢以上の感覚障害が見られるのが典型的なタイプで、21年に実施した全国調査では全体の半数強を占めた。他には、障害が出る部位が主に手足の先の「遠位型」、左右非対称の「多巣性」、1肢に限られる「局所性」などがある。これらは「病気が生じるメカニズムが異なると考えられており、治療の反応性(有効性・効き目)にも大きな違いがある」(海田医師)とされる。

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