医学生こーたのひよっ子クリニック

第8回 カラオケも立派な医療行為なんだよ。

私は2カ月前に実習の一環として、精神科単科病院を2日間見学した。精神疾患に特化した病院のため、入院患者さんの疾患もうつ病、統合失調症認知症などさまざまだった。

精神科病院は精神疾患患者を隔離する場所である、と多くの人は思っているかもしれない。しかし、これは過去の話で、現在はまったく違う。精神疾患の人々が、元気に退院し社会復帰できるようにサポートする場所なのだ。社会復帰のためにどのような最新鋭の医療が行われているのかと、私は見学を心待ちにしていた。最新の電気痙攣(けいれん)療法なのか、または動物実験で安全性が担保された新薬の治験を兼ねた医療なのか。しかし私が予想した医療とはまったく違うものだった。

治療の部屋に入ると、統合失調症の患者さんたちが楽しそうにカラオケをしていたのだ。カラオケは、誰が初めに歌うかなどの順番を決めたり、誰かが歌っている時に手拍子をしたりと、かなりの社会性が必要とされる。活動することによる精神の安定だけでなく、対人関係構築の練習など、社会復帰に必要なことがたくさん含まれているのだ。また、別の疾患にも有効で、認知症の患者さんがカラオケをしたことで、うつや徘徊(はいかい)などの起こりうる症状が軽減したという報告もある。

しかもこのカラオケは、一定の基準は存在するが保険適用の医療としてカウントされている。つまり国が正式に、「限られた社会保障費の中からお金を出す価値のある医療」として認めているのだ。カラオケが立派な医療であることを教えてくださった精神科病院の先生も、カラオケ治療の有用性を実感しているとのことだった。

このように私たちの生活の中には、症状の改善や健康の維持に役立つことが隠れている。思いもよらない行動が、何かの疾患の治療や予防につながっているかもしれない。医学の面白さを再確認したのと同時に、この面白さを伝えていくことが、医療者と非医療者の壁を取り除くための手助けになるのではないかと感じた。

→第9回 「将来はジムのインストラクターになるんですか?」

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