慢性腎臓病(CKD)において体内水分量が腎不全の進行に関連することは知られているが、CKD診療における体内水分量の測定方法は確立していなかった。大阪大学大学院の岡樹史氏、腎臓内科学教授の猪坂善隆氏らは、心不全の体液量マーカーであるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)に着目。米国の研究機関との共同研究により、心不全の既往のないCKD例においてCKDの予後の指標としてBNPを用いた場合、透析などの腎代替療法移行リスクが56%有意に低減したと大阪大学の9月11日付リリースで発表した。詳細はAm J Kidney Dis(2023年6月23日オンライン版)に掲載されている。

急性腎不全のリスクは64%、心不全による入院のリスクは63%減

 BNPは心不全例だけでなく、CKD例においても体液量を反映する。岡氏らは、CKD例の体液管理にBNP値を用いた場合の有用性を検証するため、CKD 2,998例を対象としてコホート研究を実施した。年齢の中央値は66歳、推算糸球体濾過量(eGFR)は38.1mL/分/1.73m2、観察期間の中央値は5.9年(範囲2.8~9.9年)だった。主要評価項目は腎代替療法への移行、急性腎障害の発症、心不全による入院とした。

 検討において時間依存性交絡を調整するため、周辺構造モデルを使用した。追跡期間中にBNPの測定を続けた測定群と全く測定しなかった非介入群に層別化し統計解析を行った。

 その結果、継続的なBNP評価と腎代替療法移行のリスク低下に有意な関連が示された(ハザード比0.44、95%CI 0.21~0.92)。さらに、心不全による入院のリスク低下(同0.37、0.14~0.95)、急性腎不全のリスク低下(同0.36,0.18~0.72)とも有意に関連していた。また、観察期間中の心不全入院や急性腎障害は、BNPの継続測定と腎代替療法移行の関連における中間因子であることが示された()。

図. BNP継続測定が腎予後を改善する機序(推定)

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(大阪大学プレスリリースより)

 以上の結果から、同氏らは「継続的にBNPを測定し体液管理を行うことで、心不全による入院や急性腎障害のリスクが低下し、結果として腎代替療法を導入するリスクが低下する」と結論している。また、「BNPを指標とした体液管理と良好な腎予後・心予後との関連が示された意義は大きい」とし、「今後はランダム化比較試験による効果についての検証が望まれる」と展望した。

栗原裕美