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「慢性心不全」を知っていますか?
「生活の質」に直結、専門医が訴え

聴診して鼓動を確認する岩崎陽一・東京医科大学病院循環器内科助教

 かつて「心不全」は、心臓の機能が停止したという意味での死因としてしか認識されていなかった。しかし、今は違う。高血圧や高血糖などが原因となり狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患や心臓弁膜症を発症することで全身に血液を送り出す機能が低下し、呼吸不全やむくみなどの症状を少しずつ自覚するようになり、心不全を発症する。心不全は急性期から慢性期まで診療範囲は広範囲に及ぶ。

 その中でも「慢性心不全」は大きな社会問題になっている。治癒することがなく、増悪と寛解を繰り返すため早期発見と早期の治療開始が鍵となる。

 ◇後手に回る治療

 全身に血液を送り出すポンプ機能の役割を果たしている心臓は、機能が低下すると内臓だけでなく手足を含めた各臓器に栄養や酸素を十分に送ることができず臓器障害を引き起こすことがある。その結果、全身の倦怠(けんたい)感やむくみ、歩行や階段昇降時の息苦しさなどの自覚症状が生じてくる。倦怠感やむくみは心機能の低下が進行するにつれて強くなり、起居などの日常活動への影響も招き、生活の質(QOL)に大きく影響を及ぼす。

 東京医科大学病院循環器内科で心不全の専門外来を担当している岩崎陽一助教は「本来は自覚症状が出る前に発見して治療を開始できればよい。しかし、来院する患者の大半は急性心不全の症状を発症してから受診している。どうしても治療開始が後手に回ってしまう」と語る。診断と治療の開始が遅れればそれだけ症状が悪化し、機能の維持が難しくなるからだ。

 ◇足のむくみを警戒

 では、どのようなときに受診したらよいのか。その後の診察はどうか。

患者に症状を説明する岩崎陽一・東京医科大学病院循環器内科助教

 東京都在住の83歳の男性は、自動車に乗っているだけで靴下がきつくなるほど下肢がむくんでしまう症状に悩まされていた。だが、心電図などの検査では心臓の機能の異常は見つかっていなかった。

 この男性の治療で岩崎助教は、日常生活での症状を詳しく問診した上で、ふくらはぎの触診や、胸部単純レントゲンで心臓の大きさを確認したりし、一つ一つ状態を把握していった。

 最終的に、血液検査で慢性心不全の診断指標となる「BNP」という心臓の内圧を反映する数値も参考に、「BNPの検査数値は比較的高いが、年齢を考えれば許容範囲。身体所見も含めて総合的に判断すると心不全によるむくみとは考えにくく、そう心配することはない」と診断。男性は胸をなで下ろしていたという。

岩崎陽一・東京医科大学病院循環器内科助教

◇心不全の進行、体の機能低下

 岩崎助教によると、このような形で受診してくる人は少ないという。同外来の受診者の多くは呼吸困難などの急性心不全で緊急入院し、退院後に経過観察目的に通院をしている。なお、急性心不全を起こした後では、投薬などを重ねてもなかなか心臓機能の回復が期待できず、治療は病状悪化を抑制し、心不全再入院を回避することを目標に掲げている。

 「心不全が進行すれば、心臓の機能低下だけでなく、日常の活動量の低下という問題も生じる。この結果として、運動に必要な筋肉量が失われるサルコペニアや身体機能が低下するフレイルなどの問題も生じてしまう。できるだけ早期に気づいて、治療を始めたい」と同助教は話す。

 2019年に心不全のガイドラインが改定され、急性・慢性心不全診療ガイドラインとして発行された。しかし、多くの循環器専門医は内容を把握しているが、一般内科を専門にしている実地の内科医には必ずしも浸透しているわけではなく、どれだけ心不全診療に結び付いているかは疑問視されている。

 そうした現状を踏まえた上で岩崎助教は「息切れやむくみで心配になったら、まず、かかりつけの医師に相談し、専門医を紹介してもらいたい」とアドバイスする。(喜多壮太郎・鈴木豊)

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