オーストラリア・Royal Melbourne HospitalのAhmed M. AI-Kaisey氏らは、ランダム化比較試験(RCT)Randomized Evaluation of the Impact of Catheter Ablation on Psychological Distress in Atrial Fibrillation(REMEDIAL)の結果「心房細動(AF)患者に対するカテーテルアブレーションは、AF症状だけでなく抑うつや不安といった精神的苦痛(psychological distress)も薬物療法に比べ有意に改善した」とJAMA(2023; 330: 925-933)で報告した。

精神症状に及ぼす影響を検討した初のRCT

 カテーテルアブレーションがAF患者のメンタルヘルスに良い影響を及ぼすとの報告は幾つかあるが(Pacing Clin Electrophysiol 2014;37: 703-711J Am Heart Assoc 2018; 7: e005502)、いずれも非ランダム化試験や観察研究であり、抑うつ症状や不安を主要評価項目としたRCTはこれまでなかった。

 AI-Kaisey氏らは2018年6月~20年3月にオーストラリアの2つのAF専門施設に紹介されたAF患者をアブレーション群、あるいは薬物治療群にランダムに割り付けた。

 対象は発作性AFまたは持続性AF患者で、主要評価項目は治療開始後12カ月時点のHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)合計スコア。副次評価項目は、重症(HADS合計スコア15点以上)者の割合、HADS不安スコア、HADS抑うつスコア、Beck Depression Inventory(BDI)-Ⅱスコアとした。

 治療の盲検化は不可能だったが、フォローアップ診察で精神症状やAF症状、AF負荷を評価した医師は患者がどちらの治療群に属していたかについて知らされなかった。

不安、抑うつスコアなどがアブレーション群で改善

 4例が脱落し、最終的に96例(アブレーション群49例、薬物治療群47例)が試験を完遂した。

 ベースラインの患者背景は、平均年齢がアブレーション群58±13歳 vs. 薬物治療群60±11歳(以下、同順)、男性32例(65%)vs. 33例(70%)、CHA2DS2-VASCスコア中央値が1.5(範囲1~3)vs. 1(同0~2)などで、差はなかったが、持続性AFの割合は26例(53%)vs. 18例(38%)とアブレーション群で若干多かった。治療の結果、アブレーション群では全例が肺静脈隔離に成功した。

 12カ月時点のHADS合計スコア平均値は内科治療群の11.8±8.6に対し、アブレーション群では7.6±5.3(群間差-4.17、95%CI -7.04~-1.31、P=0.005)と有意に低下した。

 重症者(HADS合計スコア15点以上)の割合(31.9% vs. 10.2%、P=0.01)、HADS不安スコア(6.6±4.8 vs. 4.5±3.3、P=0.01)、HADS抑うつスコア(5.2±3.9 vs. 3.1±2.6、P=0.004)、BDI-Ⅱスコア(10.9±8.2 vs. 6.6±7.2、P=0.01)も全てアブレーション群で有意に低値であった。

 AF症状重症度スコア(12.2±7.7 vs. 7.7±6.2、P=0.004)、AF負荷スコア中央値〔15.5%(範囲1.0~45.9%)vs. 0%(同0~3.22%)、P<0.001〕もアブレーション群で有意に低かった。

薬物治療群と公平な比較ができていない可能性

 以上からAI-Kaisey氏らは「本試験の結果は、カテーテルアブレーションが症候性AF患者の不安症状や抑うつ症状の改善にも有用であることを支持するものである」と結んでいる。

 一方、①割り付けられた治療について参加者は盲検化されていなかったので、治療/手技に関連したプラセボ効果が評価項目に影響を与えた可能性は否定てきない、②薬物治療群のアドヒアランスは自己報告に基づくものであり服薬状況を正確に把握できていなかった可能性がある、③大半の患者において厳格なリズム(脈拍)モニタリングを実施したが、無症候性AFが見逃された可能性は残る―を研究の限界として挙げている。

木本 治