「医」の最前線 地域医療連携の今

不整脈の経過に応じて治療法を選択
〜発生源をブロックするアブレーション〜 【第19回】心房細動治療の医療連携③ 福岡山王病院ハートリズムセンター長 熊谷浩一郎医師

 不整脈は、それぞれのタイプに応じた治療法が選択される。脈が遅くなる徐脈に対しては心臓に電気刺激を与えるペースメーカーが体内に埋め込まれ、脈が速くなる頻脈や期外収縮に対しては薬剤やカテーテルアブレーション(心筋焼灼術)による治療が行われる。福岡山王病院(福岡市早良区)ハートリズムセンターの熊谷浩一郎医師は、不整脈の一つである心房細動に対する独自の治療法「熊谷式BOX隔離術」を編み出した。

アブレーションは心房細動(AF)が発作性の段階で行うほど有効性が高い(福岡山王病院のデータ、熊谷浩一郎医師提供)

 ◇カテーテルアブレーションは早い段階で

 カテーテルアブレーションとは、カテーテルを足の付け根の静脈から心臓内に挿入し、異常な電気信号を発生している(心房細動の原因となっている)部位に高周波の電流を流して焼灼(しょうしゃく)する治療法である。期外収縮や頻拍発作、心房細動や心室頻拍など、脈が速くなる頻脈性の不整脈に対して行われている。

 「薬剤で発作を抑えることもできますが、薬はあくまでも対症療法でしかありません。薬だと一生飲み続けなければならないというデメリットがありますが、アブレーションは原因をたたいて起こらないようにする根治治療なので、成功すれば薬を服用しなくてもよくなります」

 心房細動のカテーテルアブレーションは、焼灼する際に、もしカテーテルに付着した血栓が脳血管に飛ぶと脳梗塞を起こしてしまうため、周術期(施術の前後の時期)には直接経口抗凝固薬を服用しなければならない。

 治療効果については、不整脈のタイプによって異なり、WPW(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト)症候群や上室性頻拍、特発性心室頻拍や心房粗動などのタイプの不整脈であれば、1回のアブレーションで完治できるものの、心房細動に関しては再発することもあると熊谷医師は指摘する。

 「心房細動の場合、アブレーションを行っても2~3年ほど経過すると再発する人が2割程度いますから、成功率は約80%になります。再手術となる確率は発作性で1割、持続性で約2割、長期持続性では3割です。2回施行して約80~90%の成功率です」

 発作性とは心房細動が自然に止まる状態のことで、時間の経過とともに止まらなくなり、1週間以上続く状態を持続性という。さらに、1年以上続いた長期持続性になると、ひとりでに止まることはなく、電気ショックなどが必要になる。

 心房細動に対するアブレーション治療は、早い段階で行うほど有効性は高く、福岡山王病院で実施されたアブレーションの初回成功率は発作性で90%、持続性で83%、長期持続性で75%となっている。

肺静脈で起きた異常な電気信号が左心房に入らないように肺静脈の開口部周辺の4本の肺静脈を円周状に焼灼する(熊谷浩一郎医師提供)

 ◇熊谷式BOX隔離術を独自に考案

 心房細動については長いこと不整脈の発生起源が分からず、焼灼する部位を特定することができなかったという。そんな中、1998年6月に1人の患者が熊谷医師のもとを受診した。毎日心房細動の発作を繰り返すため、その発生起源を探索すると左心房にある左上肺静脈から発生していたため、起源部位をアブレーションしたところ、心房細動が消失した。同年9月にはフランスのハイサゲル医師が同様の症例を45例まとめて報告した。約90%の症例で心房細動の発生源が肺静脈であるという論文だった。

 「しかし、心房細動の発生起源へのアブレーションだけでは再発するケースが出てくるようになりました。肺静脈は上下左右4本あるのですが、どこからでも起こってくることが分かってきたのです。そこでハイサゲル医師によって、さらに『肺静脈隔離術』が考案されました。これは、肺静脈のどこから起きても左心房に異常な電気信号が入ってこないよう、肺静脈の開口部周囲を円周状に4本とも囲むように焼灼して伝導ブロックを作る方法です」

 しかし、肺静脈隔離術を行っても、それ以外の場所から2割程度発生するケースが出てくるため、成功率を高めるために熊谷医師が考案したのが「BOX隔離術」という術式だった。

 「発作性の場合、ほとんどが肺静脈から起こるので、そこだけ隔離すれば90%の成功率がありますが、持続性になると左心房の後壁や上大静脈などからも起こってくるようになります。このBOX隔離術では、4本の肺静脈に加えて、両上肺静脈、そして両下肺静脈を結んだラインで左房後壁まで広くボックス状に隔離します。少しでも広い面積を焼灼した方が心房細動を起こしている電気の興奮をブロックできるというのが成功率が上がった背景にあると思います」

4本の肺静脈と左心房の後壁までBOX(箱)のように広く隔離する(熊谷浩一郎医師提供)

 BOX隔離術は保険適応で、全ての心房細動に適応となるが、左心房が5センチを超えると成功率が落ちるという。また、長く続いた持続性の心房細動にも有効で、福岡山王病院ではこれまでに約3000例の患者に対して行われた。症状やQOL(生活の質)が改善する、薬剤数が減る、心機能が改善する、脳梗塞が減る、死亡が減る、認知症が減るなどのメリットがある半面、焼灼した部位の出血によって心臓周辺に血液が貯留して起こる心タンポナーデ、血栓が飛ぶ塞栓症、横隔神経麻痺(まひ)、食道傷害などの合併症が2~3%起こることもある。

 熊谷医師は「BOX隔離術は特に持続性で有効で、対象は持続性・長期持続性心房細動がより適しています。発作性の場合であれば、肺静脈隔離術だけで十分です」と話している。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

【関連記事】


「医」の最前線 地域医療連携の今