Helicobacter pylori(HP)は感染者の免疫系を活性化することから、関節リウマチ(RA)を含む自己免疫疾患に関連すると考えられているが、HP感染とRAとの関連を検討した研究の結果は一貫していない。台湾・Taichung Veterans General HospitalのTzu-Hsuan Lee氏らは、同国の国民健康保険研究データベースを用い、過去最大規模となるHP感染者10万例弱の後ろ向きコホート研究を実施。その結果、HP感染者では非感染者と比べてRA発症リスクが有意に高く、30歳未満の女性で最もリスクが高かったとSci Rep2023; 13: 15125)に発表した。

30歳未満のHP感染者で男女ともリスク2倍超

 Lee氏らは、台湾の国民健康保険研究データベースLongitudinal Health Insurance Research Database(LHID)から、RA既往歴がなく2000~17年にHP感染などと診断されHP除菌治療を受けたHP群とHPに対する治療を受けたことがない対照群を抽出。1:1の傾向スコアマッチングを用い、各群9万7,533例を解析に組み入れた。平均年齢、男性の割合、平均追跡期間は、HP群で48.39歳、56.63%、約126カ月、対照群で48.63歳、56.65%、約122カ月だった。

 Cox比例ハザード回帰モデルによる解析の結果、1万人・月当たりのRA発症率はHP群が1.28(95%CI 1.22~1.35)、対照群が0.89(95%CI 0.84~0.94)で、対照群と比べてHP群でRA発症リスクが有意に高かった〔調整後ハザード比(aHR)1.45、95%CI 1.34~1.56、P<0.0001〕。

 HP感染の診断時年齢別では、RA発症リスクが最も高かったのは30歳未満(aHR 2.19、95%CI 1.41~3.38)、次いで45~64歳(同1.50、1.35~1.67)、30~44歳(同1.40、1.18~1.65)、65歳以上(同1.25、1.05~1.49)の順だった。年齢と性で層別化した解析の結果、RA発症リスクが最も高かったのは30歳未満の女性(aHR 2.22、95%CI 1.26~3.91)、次いで30歳未満の男性(同2.12、1.07~4.20)だった。

RA発症リスク最高はHP感染の診断後1年以内

 さらに追跡期間で層別化した解析では、RA発症のaHRは追跡期間1年未満で1.58(95%CI 1.26~1.99)、1~5年で1.43(同1.25~1.62)、5年超で1.44(同1.29~1.61)となり、RA発症リスクが最も高いのはHP診断後1年以内であることが示唆された。

 以上の結果から、Lee氏らは「HP感染はRAの発症に関連することが示された。臨床医はHP感染者でRA発症リスクが高まることを認識すべきであり、30歳未満の患者では特に注意すべきである」と結論。「HP感染者におけるRA発症率の上昇は、HP感染による慢性的な炎症反応、免疫調節異常、自己免疫反応に起因する可能性があり、RA発症の環境因子を誘発しうる腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)も関与している可能性がある」と考察し、「今後の研究で、HP感染とRAを関連付けるメカニズムを解明する必要がある」と付言している。

(太田敦子)