ノルウェー・Norwegian Institute of Public HealthのMaria C. Magnus氏らは、北欧4カ国(デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン)の出生レジストリのデータを解析した結果、生殖補助医療(ART)を施行せず出産した女性と比べ、ARTを施行して出産した女性において心血管疾患(CVD)リスクの上昇は見られなかったとJAMA Cardiol(2023年8月9日オンライン版) に報告した。

4カ国250万例のデータを解析

 ARTの施行数は着実に増加しているが、CVDリスクの上昇につながるとの報告もある。6件の観察研究を対象としたメタ解析(対象:経産婦4万1,910例)では、CVDや糖尿病リスクの上昇は確認されなかったが、脳卒中に関してはリスクの上昇傾向が認められた(J Am Coll Cardiol 2017; 70: 1203-1213)

 Magnus氏らは北欧4カ国の出生レジストリデータを集計し、ART施行の有無による出産後のCVDリスクを検討した。デンマーク (1994~2014年)、フィンランド(1990~2014年)、ノルウェー(1984~2015年)、スウェーデン(1985~2015年)で登録された249万6,441例のうち9万7,474例(4%)がARTによるものであった。

MIはART群でリスク低い傾向

 対象の平均年齢は非ART群が29.1±4.9歳、ART群が33.8±4.7歳で、追跡期間の中央値は11年(四分位範囲5~18年)だった。

 CVDは虚血性心疾患、心筋梗塞(MI)、脳血管疾患、脳卒中、心筋症、心不全、肺塞栓症、深部静脈血栓症に分類し、全体のCVD発症率は10万人・年当たり153だった。

 非ART群とART群のCVDリスクに差はなかったが〔年齢、出産回数、慢性高血圧糖尿病、多囊胞性卵巣症候群、追跡を開始した年、国を調整後のハザード比(aHR)0.97、95%CI 0.91~1.02〕、国家間のデータにはばらつきが見られた(I2 = 76%、異質性のP = 0.01)。

 MIに関しては、10万人・年当たりの発生率は非ART群の14に対しART群で12とリスクの低下が観察された(aHR 0.80、95%CI 0.65~0.99)。

ICSI、胚凍結の有無で差あるも真実は不明

 ARTの方法別にサブ解析を行ったところ、卵細胞質内精子注入法(ICSI、顕微授精)による体外受精(IVF)を行った女性は、非ART群よりもCVDリスクが低かったが、ICSIを使用しないIVFでは非ART群と差はなかった(ICSIによるIVF群 vs. 非ART群:aHR 0.83、95%CI 0.74~0.94、ICSIを使用しないIVF群 vs. 非ART群:同1.03、0.96~1.12)。

 移植胚の状態(新鮮/凍結)については、凍結胚移植を行った女性では非ART群と比べCVDリスクが上昇したが、新鮮胚移植を行った女性では差はなかった(凍結胚移植 vs. 非ART群:aHR 1.24、1.02~1.51、新鮮胚移植 vs 非ART群:同0.96、0.89~1.02)。

 以上の結果を踏まえMagnus氏らは「ARTによる出産でもCVDリスクは上昇しないことが示唆された。ARTを施行する女性が増えていることから、心強い結果である」と結論。ARTの方法の違いによる差については「曖昧な部分が多く、はっきりとした結論を出すには、さらに大規模な研究と長期の追跡が必要だ」と付言している。

木本 治