イスラエル・Sheba Medical Center(SMC)のOrly Efros氏らは「入院時の推算糸球体濾過量(eGFR)が正常値より低い患者は、退院時に正常値まで回復していても、入院後1年間の死亡リスクや入院後10年間の末期腎不全(ESKD)リスクが高く、長期の追跡が必要だ」とする後ろ向きコホート研究の結果をJAMA Netw Open(2023; 6: e2326996)に報告した。

eGFRが正常値に戻った退院患者の予後を追跡

 急性腎障害(AKI)は世界的に増加傾向にあり、特に急性疾患による入院患者での発症率が急増している。入院中のAKIは転帰不良と関連し、医療資源の使用量も多い。KDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)のステージングシステムでAKIは数時間~数日間での血清クレアチニン(SCr)値の上昇と定義され、具体的には①48時間以内にSCr 値が0.3mg/dL以上上昇、②過去7日以内にSCr値がベースライン値から150%超の上昇、③6時間のうちに尿量が0.5mg/L/kg/時間に減少―のいずれかに該当する場合としている。しかしこの定義では、入院中のSCr値の変動が予後に及ぼす重要性が部分的にしか反映されていない可能性がある。

 そこでEfros氏らはSMCの電子カルテデータを基に、入院時のeGFRが正常値以下だったものの退院時には正常値に戻った患者の長期予後を解析した。

 2007年9月~22年7月にSMCの内科病棟に入院した患者のうち、入院期間中に透析治療を導入せず、SCrを3回以上測定し、退院時のeGFRが60mL/分/1.73m2以上の者を解析対象とした。

1年死亡リスクが18%、10年ESKDリスクが267%高い

 対象は4万558例で、年齢中央値は69歳(四分位範囲56~80歳)、女性が1万8,004例(44%)、男性が2万2,554例(56%)、入院時のeGFRが正常だった患者(正常群)は3万4,332例(85%)、正常値未満だった患者(正常値未満群)は6,226例(15%)だった。正常値未満群のうち765例は退院時のeGFR改善幅が15%に達しなかったので除外した。

 正常値未満群の方が、年齢が高く(78歳 vs. 67歳、P<0.001)、糖尿病虚血性心疾患心不全などの併存疾患も多かった。

 解析の結果、入院後1年間の死亡リスクは、正常群に対し、正常値未満l群では有意に18%高かった〔調整後ハザード比(AHR)1.18、95%CI 1.11~1.24、P<0.001〕。

 入院時のeGFRに基づき正常値未満群を高値例(45~60mL/分/1.73m2)と低値例(45mL/分/1.73m2未満)に層別化し、サブ解析を行ったところ、死亡リスクは高値例(AHR 1.05、95%CI 0.98~1.13)よりも低値例(同1.42、1.31~1.53)で高く、死亡リスクと入院時eGFRとの用量依存的関連が示された。

 入院後10年間のESKDリスクについては、正常群に対し正常値未満群では有意に267%高かった(AHR 3.67、95%CI 2.43~5.54、P<0.001)。

AKI以外の患者も長期追跡すべき

 以上の結果を踏まえ、Efros氏らは「AKIと臨床転帰との関連については多数の報告があるものの、AKIの定義に当てはまらない患者の長期追跡は現行のガイドラインで推奨されていない」と指摘。入院前のSCr値に関するデータが欠落していること、入院中に3回以上SCr測定をしたことなどのバイアス・限界はあるものの、「KDIGOの定義ではAKIに該当しはないが、入院時のeGFRが低下し、退院時に腎機能が回復した患者の死亡リスクやESKDリスクを大規模コホートで検討したのは本研究が初めてである。今回の知見は、腎機能が回復して退院した患者であっても、入院時のeGFR低下自体が死亡リスクやESKDリスクと関連する可能性があり、これらのAKIに該当しない患者に対しても退院後の長期追跡の必要性が示された」と結論している。

木本 治