韓国・Uijeongbu Eulji Medical CenterのYou-Jeong Ki氏らは、同国の国民健康保険システム(NHIS)のデータを後ろ向きに解析した結果、「喫煙歴が20年未満であれば、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行後に禁煙しても、主要脳心血管イベント〔MACCE:全死亡、心筋梗塞(MI)、冠動脈再建術、脳卒中の複合)リスクは非喫煙者と同程度まで下がる」とEur Heart J(2023年9月26日オンライン版)に報告した。

PCI後の喫煙状況がMACCEリスクに及ぼす影響を検討

 MIや脳梗塞の患者において、喫煙が良好な予後と関連するといういわゆる‟喫煙パラドックス"の報告があるが、喫煙者では非喫煙者に比べ、そもそも発症年齢が低く、それが生命予後に影響している可能性が示唆されている(Circulation 1993; 87: 53-58J Am Coll Cardiol 1995; 26: 1222-9Eur Heart J 2001; 22: 776-784)。また、‟喫煙パラドックス"を示唆する研究の中には、現喫煙者と過去喫煙者の区別や喫煙量のデータが不十分なものがあるとの指摘もある(関連記事「脳梗塞・再灌流成功例の死亡、予測因子同定」)。

 一方、薬剤溶出ステント(DES)によるPCIが主流となった現代において、喫煙およびPCI後の禁煙が予後に及ぼす影響は十分検討されていない。

 Ki氏らは、2009年~16年に韓国でPCIを受けた7万4,471例を4年間(30万1,773人・年)追跡し、喫煙年数や禁煙とPCI後のMACCEリスクとの関連を検討した。

喫煙歴20年超では禁煙してもリスクが20%上昇

 PCIの種類は97.8%がDESであった。初回PCI後の診察時の自己申告に基づき、対象を非喫煙者(3万3,783例)、元喫煙者(PCI後に禁煙:2万8,713例)、現喫煙者(1万1,975例)に分類。コホート全体の平均年齢は62.5±10.6歳で、5万6,423例(75.8%)が男性だった。

 非喫煙者は他の2群に比べ65歳以上の割合(57.9%)、女性の割合(50.5%)が多かった。現喫煙者は若く(65歳以上25.6%、40~64歳71.7%)、男性は95.9%だった。

 多変量を調整したCox比例ハザード解析の結果、非喫煙者に対する現喫煙者のMACCEリスクは有意に20%高かったが〔調整後ハザード比(aHR) 1.198、95%CI 1.137~1.263〕、元喫煙者では非喫煙者と同程度だった(同 1.036、0.992~1.081)。

 元喫煙者における禁煙前の喫煙年数(pack-year)別MACCEリスクを検討したところ、10 pack-year未満群(aHR 1.182、95%CI 0.971~1.438)と10~20 pack-year未満群(同1.114、0.963~1.290)では非喫煙者と有意差はなかったが、20~30 pack-year未満群(同1.206、1.054~1.380)、30 pack-year超群(1.223、1.126~1.328)ではMACCEリスクが有意に20%以上高かった。

喫煙パラドックスは否定された

 Ki氏らは「DES時代において、血行再建術後の喫煙が臨床的に及ぼす影響はこれまで十分に解明されてこなかった。本研究は、PCI後の喫煙/禁煙と臨床転帰との関連を検討した最大規模のものである」と指摘。その上で「PCI後のMACCE発生率は非喫煙者で有意に低く、喫煙パラドックは見られなかった。元喫煙者のMACCEリスクは現喫煙者よりは低かったが、禁煙によって非喫煙者と同程度までリスクが下がるのは、喫煙期間が20 pack-year未満の者であった」と結んでいる。

木本 治