抗うつ薬には抗がん作用があることが報告されている。台湾・Tsaotun Psychiatric CenterのKuan-Lun Huang氏らは、抗うつ薬と肝細胞がん(HCC)の予後との関連を検討するため、HCC患者30万8,938例を対象に、全国規模の後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、HCC診断後の抗うつ薬の使用は患者の死亡率の低下と有意に関連していたとJAMA Netw Open2023; 6: e2332579)に報告した。

抗うつ薬のがん細胞に対するアポトーシス作用か

 肝がんは世界のがん死亡原因の第3位で、その大半をHCCが占めている。

 三環系抗うつ薬(TCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬に関して、アポトーシス作用などの抗がん作用を検討する研究が増えている。TCAやSSRIがHCCに対して有望な結果を示す疫学研究はあるが、これらの抗うつ薬がHCCの予後に与える影響は明らかでない。

 そこでHuang氏らは、抗うつ薬の使用とHCCの予後との関連を検討するコホート研究を実施した。対象は、台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)を用いて同定した1999年1月1日〜2017年12月31日に新たにHCCと診断された患者30万8,938例(65歳以上42.7%、男性65.6%)。コホート登録日はHCC診断日とし、2018年12月31日まで追跡した。

 抗うつ薬の使用は、NHIRDに1回以上の抗うつ薬処方の記載がある場合とした。抗うつ薬は①SSRI、②SNRI、③TCA―の3クラスに分類した。それ以外の抗うつ薬はその他に分類したが、異質性のためサブグループ解析には組み入れなかった。

 抗うつ薬の使用時期と死亡率との関連を検討するため、抗うつ薬の使用がHCC診断の前と後でそれぞれ解析を行った。診断前の抗うつ薬使用は、HCC診断前1年間に1回以上の処方がある場合、診断後の抗うつ薬使用は、HCC診断日から死亡または2017年末までに1回以上の処方がある場合とした。

 主要評価項目は、全死亡率とがん特異的死亡率とした。解析には、Cox比例ハザード回帰モデルを用いた。HCC診断前については年齢、性、低収入、診断前の併存疾患(B型肝炎ウイルス感染、C型肝炎ウイルス感染、肝硬変、アルコール使用障害)、チャールソン併存疾患指数を、HCC診断後についてはこれらに加え、HCC治療(手術、高周波アブレーション、経カテーテル動脈塞栓術、経カテーテル肝動脈化学塞栓術、放射線療法、化学療法、ソラフェニブ)を調整した上で解析した。

全死亡リスクが31%、がん死亡リスクが37%低下

 対象患者30万8,938例のうち、HCC診断前1年以内に抗うつ薬を使用した患者は2万1, 202例、非使用の患者は28万7,736例だった。HCC診断後に抗うつ薬を使用した患者は6万6,211例で、非使用の患者は23万5,083例だった。

 解析の結果、HCC診断前の抗うつ薬使用は、全死亡〔調整後ハザード比(HR)1.10、95%CI 1.08〜1.12)およびがん特異的死亡(同1.06、0.96〜1.17)のリスク低下との間に有意な関連はなかった。

 一方、HCC診断後の抗うつ薬使用は、全死亡(調整後HR 0.69、95%CI 0.68〜0.70)およびがん特異的死亡(同0.63、0.59〜0.68)のリスク低下と有意に関連していた(いずれもP<0.001)。

 この関連は、異なる抗うつ薬のクラス、B型肝炎ウイルスまたはC型肝炎ウイルス感染、肝硬変、アルコール使用障害などの併存疾患を有するサブグループ間で一貫していた。

 以上から、Huang氏らは「今回の結果はHCC患者において抗うつ薬ががん治療薬として有用であることを示唆するものだが、因果関係を示すものではなく、交絡やバイアスの影響を受けている可能性がある。確実なエビデンスを得るには、ランダム化試験での評価が必要だ」と結論している。

(今手麻衣)