米・University of California, San FranciscoのJennifer M. Mitchell氏らは、合成麻薬の一種メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)を心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する心理療法の補助として用いるMDMA-assisted therapy(MDMA-AT)の有効性を検証するプラセボ対照第Ⅲ相ランダム化比較試験MAPP2を実施。「MDMA-ATは、背景が多様な中等症~重症PTSD患者の症状と機能を改善し、忍容性も全般的に高かった」とNat Med(2023年9月14日オンライン版)に報告した。

恐怖記憶の固定化解消に役立つ可能性

 PTSDは年間に米国人口の約5%が発症する重篤な神経精神疾患であり、治療は困難である。特に解離性のサブタイプやトラウマへのエクスポージャーが繰り返される患者、気分障害や物質使用障害などが併存する患者の治療は複雑だ。

 PTSD治療のゴールドスタンダードはトラウマフォーカスト精神療法(trauma-focused psychotherapy)だが、持続症状を呈する患者が多く脱落率も高い。

 米食品医薬品局(FDA)はPTSD治療薬として選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のセルトラリンとパロキセチンを承認しているが、治療反応率は50~60%程度であり、より効果の高い治療法が必要とされている。

 幻覚作用を有するMDMAはエンタクトゲン(共感薬)ともいわれ、シナプス前トランスポーターの構造変化を惹起することによりモノアミンの再取り込みおよび分泌を促進し、恐怖記憶の固定化の変化や、恐怖消去を促す作用があるとされている。

 PTSD患者に対するMDMA-ATのリスク・ベネフィットが良好であることは複数の第Ⅱ相試験で示唆されており、Mitchell氏らは既に、MDMA-ATの有効性や忍容性について第Ⅲ相ピボタル試験MAPP1で報告している(Nat Med 2021; 27: 1025-1033)。

民族・人種的に多様な集団を対象

 MAPP2はMAPP1と同様の手順で行われ、2020年8月21日~22年5月18に登録した104例を90分の準備治療(心理療法)後、MDMA-AT群(53例)またはプラセボ群(51例)にランダムに割り付けた。治療は1カ月置きに心理療法を3セッション(1回8時間)行い、最初のセッションでMDMAまたはプラセボを80mg投与し、1.5~2時間後に40mgを追加。2回目と3回目のセッションでは、120mgと60mg(追加)を投与した。セッションの内容は両群とも同じだった。

 MDMA-AT群とプラセボ群の患者背景は、平均年齢がそれぞれ38.2±11.0歳と40.0±9.6歳、男性は21例(39.6%)と9例(17.6%)、ヒスパニック/ラテン系が17例(32.1%)と11例(21.6%)、アメリカインディアン/アラスカ先住民が0例と2例(3.9%)、アジア系が5例(9.4%)と6例(11.8%)、黒人/アフリカ系米国人が5例(9.4%)と3例(5.9%)、白人が37例(69.8%)と32例(62.7%)で、民族・人種的に多様な集団だった。

 PTSDの平均罹病期間はMDMA-AT群16.3±14.3年、プラセボ群16.1±12.4年だった。

PTSD症状スコア、障害尺度スコアを有意に改善

 3セッション終了時点で、主要評価項目であるClinical-Administered PTSD Scale(CAPS)スコアの変化量(最小二乗平均値)は、プラセボ群(-14.8、95%CI -18.28~-11.28)と比べMDMA-AT群(同-23.7、-26.94~-20.44)で有意に改善した〔P<0.001、効果量(Cohen's d)=0.7〕。

 副次評価項目のSheehan Disability Scale(SDS)スコアの最小二乗平均値も、プラセボ群の-2.1(95%CI -2.89~-1.33)に対し、MDMA-AT群では-3.3(同-4.03~-2.60)と有意な改善を認めた(P=0.03、Cohen's d=0.4)。

 重症の治療関連有害事象がMDMA-AT群の5例(9.4%)、プラセボ群の2例(3.9%)に見られたが、死亡例や重篤例はなかった。

  以上の結果を踏まえ、Mitchell氏らは「MDMA-ATは多様な患者集団においても、PTSD症状や機能障害の改善に有効であることが示唆された」と結論。

 研究の限界としては、自殺リスクの高い患者やパーソナリティ障害合併患者、心血管疾患を基礎疾患に持つ患者を除外したことを挙げている。また、今回観察された効果量(Cohen's d=0.7)はSSRIのセルトラリンやパロキセチンの試験で報告された値(0.09~0.56)よりは高いが(Front Psychiatry 2019; 10:650)、直接比較のデータではないので、MDMA-ATのSSRIに対する優越性を示すものではないと付言している。

木本 治