こちら診察室 アレルギー性鼻炎の治療最前線

治療の4本柱と予防法
~豊富な治療薬が出現~ (後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授)【第2回】

 アレルギー性鼻炎の治療には、患者とのコミュニケーションを重視しながら、(1)原因となる抗原の除去・回避(2)薬物療法(3)手術療法(4)原因物質を少量から投与するアレルゲン免疫療法の四つの柱がある。

スギ花粉がどこからどのくらい飛んでくるかを示すシミュレーション結果=ウェザー・サービス提供

 抗原の除去・回避では、スギ花粉の飛散観測の進歩が役立っている。花粉飛散のシミュレーションによる予測や、リアルタイムモニターを用いた花粉数測定精度の向上によって、「いつ」「どこに」「どの程度」の花粉が飛散するのかを詳細に把握できるようになった。ここでは環境省の貢献が際立っている。しかし、一般的なテレビ、新聞などのメディア報道による花粉情報では、気象条件に基づいた予想を伝えるだけに終わることが多く、患者にとって有益な情報が十分に生かされていない。

 薬物療法はすべての医師が実施でき、すべての患者が受けたことのある身近な治療法と言える。現在、アレルギー性鼻炎・花粉症に用いることができる治療薬は、抗ヒスタミン、抗ロイコトリエン、抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2、Th2サイトカイン阻害、遊離抑制、漢方、鼻噴霧用ステロイド、点鼻抗ヒスタミンなどがある。

 これらの治療薬が効果を発揮する症状や重症度を考慮し、患者ごとに適切な治療法を組み合わせることが重要だ 。

 2011年5月に、われわれが実施した1000人規模のインターネット調査によると、花粉症治療を行っている内科、耳鼻科、小児科の医師が治療で主に使用する薬剤は、第2世代抗ヒスタミン薬であることが分った。全ての診療科で96%以上の医師が処方しており、まさにゴールドスタンダード(黄金律)と言うことができる。診療ガイドラインでも、「軽症」「中等症」「重症」「最重症」の全ての重症度に対して、第2世代抗ヒスタミン薬は推奨されている。つまり、I型アレルギー疾患の典型であるアレルギー性鼻炎では、ヒスタミンが病態形成で最も重要で、抗ヒスタミン薬の選び方がアレルギー性鼻炎治療の重要なポイントになる。

 従来の抗ヒスタミン薬(特に第1世代)では眠気、口の渇き、尿が出にくくなる尿閉(にょうへい)などの副作用が少なからず発生していたが、近年の非鎮静性抗ヒスタミン薬は、これらの副作用がほとんど出現しなくなってきた。理想的な抗ヒスタミン薬の特徴として、鎮静作用がなく、即効性があり、薬物相互作用の少ないことが挙げられるが、1990年以降、そのような薬剤が次々と発売されてきた。

 抗ヒスタミン薬を選択するときには、脳内ヒスタミン受容体占拠率に着目し、占拠率20%以下の非鎮静性抗ヒスタミン薬を選択すべきだ。脳内ヒスタミン受容体はヒスタミン神経系、すなわち学習、覚醒、けいれん抑制に重要な機能を持っているが、鎮静作用の強い抗ヒスタミン薬では、この重要な機能が抑制されてしまう。脳機能を低下させてまでも、鎮静作用を有する抗ヒスタミン薬を使用すべきか改めて考えるべきだ。

 2011年のインターネット調査の結果によると、成人では非鎮静性第2世代抗ヒスタミン薬が78.2%処方されているのに対し、第1世代抗ヒスタミン薬と鎮静作用のある第2世代抗ヒスタミン薬は12.8%だった。一方、15歳未満の小児に対しては、非鎮静性第2世代抗ヒスタミン薬が63.8%、第1世代抗ヒスタミン薬と鎮静作用のある第2世代抗ヒスタミン薬が25.5%となり、小児に対して、鎮静作用を有する抗ヒスタミン薬が成人よりも多い割合で処方されていることが分かった 。

 第1世代抗ヒスタミン薬を処方する理由として、即効性があることや効果が強いこと、使用経験が豊富という回答が上位に上がってきた。しかし、証拠に基づく医療の立場に立てば、即効性や効果の強さにおいても、第1世代抗ヒスタミン薬を積極的に使用する根拠は見いだせない。

 このような状況は医療用医薬品だけでなく、一般用(OTC)医薬品にも当てはまる。従来の鼻炎用OTC医薬品では、第一世代抗ヒスタミン薬を含有するものがほとんどだ。処方箋が必要なく、手早く、手軽に購入できることは患者にとってありがたいが、第一世代抗ヒスタミンの副作用を承知した上で購入することは現実的に期待できない。理想的には、一時的な短期間の使用にとどめるか、医療機関を受診できない場合は、医療用医薬品として用いられた成分をOTC医薬品に転換したスイッチOTCを選ぶことが望ましい。

 1種類の薬では症状がコントロールできない場合には、その時点の病気のタイプや重症度に応じて他の治療薬を併用することが効果的だ。具体的には、くしゃみ・鼻水型には抗ヒスタミン薬と鼻噴霧用ステロイド薬が、鼻づまり型とすべての症状が同程度である充全型には抗ロイコトリエン薬と鼻噴霧用ステロイド薬の併用が推奨されている。それでもコントロール不良な場合には、他の薬剤をさらに上乗せすることを考慮する。

 鼻噴霧用ステロイド薬の進歩は、服用した薬剤が全身に達する割合(バイオアベイラビリティー)に表れている。すなわち、市販されている局所ステロイド薬は、バイオアベイラビリティーが低く、副腎機能に与える影響が極めて少ない。また、効果の持続も向上した結果、1日1回投与が可能になった。液薬とパウダー製剤があるので刺激感、使用感などによって使いやすいものを選択する。

花粉対策用の眼鏡=ジェイアイエヌ提供

 マスクや眼鏡は抗原の除去・回避の原則から、まず初めに行うべき基本的なアレルギー対策だ。眼鏡を掛け、マスクを装着することによって、結膜や鼻腔(びくう)に侵入する花粉数を減らすことが可能だ。模型を使った実験や実際に人がマスクや眼鏡をしたときに、花粉が減少することはいくつかの研究で証明されている。

 しかし、現実的な問題は、マスクや眼鏡の有用性は知識として知っていても、実行する花粉症患者は決して多くないことだ。いつもはコンタクトレンズを使用していても花粉症の時期は眼鏡をするように指導しても、なかなか実践する患者は少ない。

 マスクも、ここ数年コロナ禍で必要性は理解されているが、正しく装着できている率は高くない。マスクと顔の間に隙間があれば容易に花粉は鼻腔内に侵入できるし、鼻を出して口だけマスクしている場合には効果はない。薬物療法やアレルゲン免疫療法を行っていても、抗原にさらされないよう身を守る意識は持ち続ける必要がある。(了)


後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授

【後藤 穣(ごとう・みのる)】
現職 
日本医科大学耳鼻咽喉科学 准教授
日本耳鼻咽喉科学会専門医、専門研修指導医
日本アレルギー学会 常務理事、指導医・専門医
経歴    
1991年日本医科大学医学部卒業
2004年日本医科大学耳鼻咽喉科学 講師
2011年日本医科大学耳鼻咽喉科学 准教授
2014年日本医科大学多摩永山病院 病院教授
2018年日本医科大学付属病院 本院復帰

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