韓国・Seoul National University HospitalのYoon Jeong氏らは、国民健康保険の償還データを活用した後ろ向き解析の結果「飲酒者であっても緑内障診断後に禁酒することで、重症視力障害(visual impairment;VI)や失明のリスクを減らすことが可能かもしれない」とJAMA Netw Open(2023; 6: e2338526)に報告した。

禁酒群と飲酒継続群で検討

 飲酒は眼圧上昇との関連が示唆されており、特に、高頻度かつ多量の飲酒は、緑内障リスクを上昇させると言われている(関連記事:「高頻度・多量の飲酒で緑内障リスク上昇」)。しかし、診断後の禁酒が緑内障患者の視力転帰を改善するかどうかに関しては、確立されたエビデンスは存在しない。

 Jeong氏らは、健康診断時にアルコール摂取状況に関する質問(①週に平均何日、お酒を飲みますか?、 ②1日に平均何杯、お酒を飲みますか?)を行い、飲酒者のうち2010~11年に開放隅角緑内障(OAG)と診断された患者を抽出。次の健康診断時に同様の質問を行い、禁酒した患者(abstainers:禁酒群)と飲酒を継続した患者(sustainers:飲酒継続群)の重症VI/失明リスクを2020年まで追跡した。ベースラインの健康診断からOAG診断までの期間は平均1.5±1.2年、OAG診断から次の健康診断までの期間は平均1.9±1.4年だった。

両群の患者背景の差は逆確率重み付けで調整

 OAGと診断された飲酒者は合計1万3,643例だった。平均年齢は53.7±11.9歳で、88.4%(1万2,066例)が男性。禁酒群は2,866例(21.0%)、飲酒継続群は1万777例(79.0%)だった。飲酒継続群のうち7,458例(69.2%)は軽度飲酒者(アルコール消費量 105g/週未満)、3,319例(30.8%)は中程度/大量飲酒者(同105g/週以上)だった。

 飲酒継続群は禁酒群に比べ若く(52.9±11.7歳 vs. 57.3±12.7歳)、男性割合が多く(91.9% vs. 75.5%)、併存疾患(高血圧糖尿病、脂質異常症など)の罹患率が低い傾向にあった。また、飲酒継続群は喫煙率が高く(71.0% vs. 45.6%)、低収入者の割合が低かった(16.8% vs. 23.9%)。

 なお、ベースラインにおける両群の患者背景は逆確率重み付け(IPTW)で調整した。

重症VI/失明リスク37%低下

 追跡期間(9万1,366人・年)中、飲酒継続群の45例、禁酒群の13例が重症VIあるいは失明となった。Cox比例回帰モデルによる多変量解析の結果、年齢、性、BMI、喫煙、併存疾患などで調整後の禁酒群における重症VI/失明リスクは飲酒継続群に比べ有意に低かった〔調整後ハザード比(aHR)0.63、95%CI 0.45~0.87〕。

 飲酒継続群のサブグループ解析では、軽度飲酒者におけるVI/失明リスクは、禁酒群と比べ有意に高く(aHR 1.52、95%CI 1.01~2.08、P=0.02)、中程度/大量飲酒者ではさらにリスクが上昇した(同1.78、1.11~2.86)。

 飲酒頻度については、週4回以上で禁酒群に比べ、VI/失明リスクが有意に上昇したが(aHR 2.56、95%CI 1.52~4.33)、週3回以下では禁酒群との有意差はなくなった(同1.42、0.97~2.08)。

 以上の結果からJeong氏らは「診断時点で飲酒者であったOAG患者を対象としたコホート研究の結果、禁酒はOAG診断後の重症VI/失明リスクの低下と関連することが確認された。新規にOAGと診断された患者には、生活習慣への介入を含む総合的なアプローチが不可欠である」と結論している。

木本 治