「臓器提供という決断は簡単ではなかった」。2017年、米山順子さん(45)は家族と話し合った末、夫の脳死下での臓器提供を承諾した。重い決断だったが、その後も葛藤に苦しむことがあったという。
 医師から脳死の可能性が高いと告げられた夫は人工呼吸器が装着され、息をしているように見えた。触れた手は温かく、「本当に寝ているみたいだった」。
 それまで実際問題として考えたことはなかったが、夫は運転免許証で臓器提供の意思表示をしていた。生前に「死んで焼いてしまえば灰になるだけだから、使えるところは使ってほしい」と話していたことを思い出し、「人の役に立てれば」と脳死下の臓器提供に同意した。
 心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓(すいぞう)が提供され、「彼の思いがいろんな所に、一つ一つ受け渡されていったんだな」と思い、安堵(あんど)した。
 しかし、提供後に身内から「私はやりたくなかった」と言われ、決断が正しかったのか悩んだ。周囲から心ない言葉も掛けられ、「だんだんと臓器提供について話さなくなった」という。
 同じ悩みを持つ家族と交流の場をつくろうと、約3年前に臓器提供者(ドナー)家族の会「くすのき会」を立ち上げた。米山さんは「本人が意思表示をしていても最終的に決断するのは家族。提供後も葛藤を抱える家族をサポートすることが必要だ」と話した。 (C)時事通信社