非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、肥満メタボリックシンドロームを背景として発生した脂肪肝のうち、進行性のものを指す。進行すると肝硬変肝がんに進展するリスクが上昇し、肝硬変肝がんの原因として最も増加している疾患だ。しかし、現時点では有効な治療法はなく、主に生活習慣への介入が行われている。そのような中、スマートフォンアプリによる治療法の開発が進められている。株式会社CureApp代表取締役社長/医師の佐竹晃太氏は、同社が2月20日に開催したメディアセミナーで、今年(2024年)1月に開始したNASH治療アプリの第Ⅲ相臨床試験の背景と概要について説明した。

現状の治療法は継続性に課題

 NASHは生活習慣病の1つに数えられ、肥満メタボリックシンドロームの増加に伴い、年々患者数は増えている。進行すると肝がんや心血管疾患などの重篤な疾患につながることから、早期の治療介入が必要である。しかし、現時点では確立された治療法がなく、①患者における生活習慣改善に対するアドヒアランスの低下、②医療機関側の人員確保が難しく食事療法運動療法の長期継続が困難―という問題があった。

 そこで佐竹氏は、NASH患者がスマートフォンを用いることで、長期フォローアップの実現が期待できるNASH治療アプリを開発。生活習慣のサポートを目指している。

 治療アプリは、体重や食事内容などの記録機能と患者ごとに個別化された学習コンテンツを提供する患者アプリと、体重測定値や患者のプログラム進捗状況、記録が閲覧できる医師アプリを連携することで、医師はアプリの記載内容に応じた生活指導が可能となる(図1)。

 同氏はNASH治療アプリの特徴として、体重の推移と生活習慣を関連付けることで患者の状態を有機的に観察できることを挙げている。

図1.NASH治療アプリの概要

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(CureApp資料より)

これまでの臨床試験では7割の患者で線維化が改善

 2022年に先行研究である多施設共同臨床試験を行い、その結果をAm J Gastroenterol2023; 118: 1365-1372)に報告している。

 対象は、肝生検でNASHが確認された19例(平均年齢52.16±10.77歳、男性52.6%、BMI 32.04、肝線維化ステージF1 36.8%、F2 31.6%、F3 31.6%)で、48週間にわたりNASH治療アプリを使用し、有効性を検討した。主要評価項目は、肝線維化の悪化を伴わないNASH活動性スコア〔nonarcoholic fatty liver disease activity score(NAS)〕のベースラインからの変化とした。副次評価項目は、肝線維化の悪化を伴わないNASの2点以上の改善、体重の変化、線維化の退縮とした。

 検討の結果、患者の68.4%(13/19例)でNASの有意な改善が観察された。ベースラインから48週時までのNASの平均変化は-2.05±1.96点だった(閾値-0.7点と比較した場合、P<0.001)。副次評価項目については、57.9%(11/19例)でNASが2点以上低下し、48週時の平均体重減少率は8.3%(P<0.001)、肝線維化ステージの改善は、F2~F3の患者で58.3%に観察された。

生活習慣指導+治療アプリの有効性を第Ⅲ相試験で検討

 この結果を受けて、同社は2022年8月にサワイグループホールディングスと共同開発計画に関する契約を締結し、今年1月に国内第Ⅲ相ランダム化非盲検並行群間多施設共同試験を開始。対象はNASH患者のうち、生活習慣指導により治療効果が期待できると治験責任医師または治験分担医師が判断した患者としている。

 介入群、対照群ともに医師による生活習慣指導を受けるが、介入群ではNASH治療アプリを利用し、医師はアプリ内の患者情報および指導を支援する情報を参照して診療を行う。対照群では体重測定を実施し診療を行うこととした。目標症例数は346例(介入群、対照群各173例)で、主要評価項目は48週時にNASHからnon-NASHに改善した患者の割合としている。

 佐竹氏は「NASHは重篤な疾患につながり、患者数も増加しているが、いまだ治療薬のない生活習慣病。NASH治療の新たな試みとしてNASH治療アプリは大きな意義があると考える。世界初のアプリによるNASHの治療法確立を目指したい」と展望している。

栗原裕美