衛生と消毒

 世界の感染症でもっとも多いのは感染性下痢症で、原因となる病原体としては病原性大腸菌が多く、サルモネラ、その他の細菌、ロタウイルス、ノロウイルスなどのウイルス、クリプトスポリジウムなどの原虫が原因のこともあります(感染性胃腸炎)。
 開発途上国への旅行時によくみられる、いわゆる「旅行者下痢症」は大腸菌を中心とした細菌性のものが多く、冬季の子どもの下痢はロタウイルスによることが多いといわれています。これらはほとんど経口感染で、便などの処理が衛生的におこなわれ、飲料水が正しく浄化され、手洗いが励行されていれば防止できます。
 日本では上・下水道がととのってきたので比較的安全ですが、井戸水を利用している場合は、時に汚水が入り込み、下痢症の多発を招くことがあります。したがって、水の点検も大切です。
 また、食べ物を介して経口感染することもあります(細菌性食中毒症)。食材の洗浄、加熱や調理用具の衛生管理にも気を配る必要があります。このような衛生上の環境整備は、病原体を運ぶハエや、刺し口から病原体を注入する蚊、その他の昆虫に対しても必要です。
 病原体を除く方法には、洗ったり、拭いたりして除去する方法と、熱や消毒薬で殺菌する方法があります。
 食品では洗浄や加熱がおもな方法で、傷の場合などはまず洗ってよごれと病原体を落とし、ヨード剤や逆性せっけん、クロルヘキシジンで消毒します。
 器具などにはアルコールや塩素系消毒薬が使えます。そのほか、グルタールアルデヒド、過酢酸などがあり、目的に応じて使い分けます。
 個人レベルでは、うがいや用便後の手洗い、食事前の手洗いを心掛けます。手は洗面器などにためた水ではなく、流水で洗うのがコツです。
 野菜なども流水でよく洗うのが効果的です。また、できあがった食品はそのまま放置せず、新鮮なうちに食べることが食中毒予防の基本になります。
 冷蔵庫の中でも、ゆっくりですが細菌は増殖しますので、冷蔵庫や冷凍庫を過信しないことが大切です。
 真空パックの中を好む菌もありますので用心が必要です。加熱でほとんどの細菌は死にますが、ブドウ球菌がつくる食中毒を起こす毒素(エンテロトキシン)などは熱でもこわれないので、食中毒は防げません。菌や毒素がふえないうちに食べるのが最良の安全対策となります。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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