特定非営利活動法人Fine
「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート2023」結果
不妊治療患者をはじめ不妊・不育で悩む人をサポートするセルフサポートグループ「NPO 法人 Fine (ファイン、以下「当法人」)」は、2023年6月~8月に、「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート2023」を実施し、1,067人の回答を得ました。
2022年4月より、不妊治療については、人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」に健康保険が適用されるようになりました。それによる社会の不妊治療への意識の変化や、新型コロナウイルス禍における在宅ワークの普及が、仕事と不妊治療の両立にどのような影響があったのか、治療中に従事していた就業形態や業種、不妊や不育症治療の治療期間によって仕事と不妊治療の両立のしやすさに違いがあるのかなどについて、調査を行ないました。さらには6年前に当法人が実施した同様の調査と比較して、どのような変化があったのかについて考察しました。この調査の目的は、妊娠を望む当事者が仕事と不妊や不育症治療の両立ができる社会を確立する一助になること、また社会や職場での当事者の現状を把握し、必要なサポートを明確にすることです。
調査結果概要
<1>仕事と不妊や不育症治療の両立が困難で「退職」を選んだ人は39%(Q12)
両立が困難で働き方を変えた人(治療経験者全体の39%)の中で、「退職」(39%)が最も多く、次に「転職」(16%)、「休職」(14%)であった(Q12)。
就業形態別の「退職」を選んだ人の割合は「個人業務請負」(80%)が最も多く、次に「派遣社員」(60%)、「パート・アルバイト」(46%)であった(Q5×Q12)。
業種別の「退職」を選んだ人の割合は、「建設業」(50%)、「教育、学習支援業」(45%)、「卸売業、小売業」(44%)であった(Q6×Q12)。(図1~図7参照)
<2>治療歴が長いほど、働き方を変える人が多い(Q2×Q11)
仕事と不妊や不育症治療との両立が困難で働き方を変えたことの有無を、不妊や不育症治療の期間別で見てみると、働き方を変えたことがある人の治療期間で最も多かったのは「10年以上」(84%)、次に「5年~10年未満」(59%)、「2年~5年未満」(43%)。働き方を変えたことがない人の治療期間で最も多かったのは「1年未満」(85%)、続いて「1年~2年未満 」(68%)、「2年~5年未満」(57%)(Q2×Q11)。
働き方を変えたことがある人の就業形態別で見てみると、最も多かったのは「内職」(100%)、「パート・アルバイト」「会社役員」(ともに67%)、「嘱託・契約職員」「派遣社員」(ともに47%)と続く(Q5×Q11)。
働き方を変えたことがある人が働いている(いた)会社等の業種別に見ると、最も多かったのは「運輸業、郵便業」(52%)、続いて「農業、漁業、林業、水産業」(50%)、「医療、福祉」(48%)(Q6×Q11)。(図8~図10参照)
図8
<3>職場で「不妊や不育症治療をしている」ということを周囲に話しづらく感じている人は81%(Q16)
職場で「不妊や不育症治療をしている」ということを周囲に話している人は65%(Q15)。一方、職場で「不妊や不育症治療をしている」ということを周囲に話しづらく感じている人は81%だった(Q16)。
その理由で最も多いのは、「不妊や不育症であることを伝えたくない」(68%)。「妊娠しなかった時、職場にいづらくなりそう」(57%)、「不妊や不育症治療に対する理解が少なく、話してもわかってもらえなさそう」(53%)と続く(Q17)。(図11~図13参照)
図11
図12
図13
<4>職場に不妊や不育症治療をサポートする制度等がある人は20%(Q18)
仕事をしながら不妊や不育症治療をしたことがある人の職場に、不妊や不育症治療をサポートする制度等がある業種は「電気、ガス、熱供給、水道業」(43%)が最も多く、「教育、学習支援業」(34%)、「運輸業、郵便業」(33%)となっている(Q6×Q18)。
職場に不妊や不育症治療をサポートする制度等があっても「使った(使おうと思う)」人は60%(Q20)。「使わなかった(使おうと思わない)」(40%)と回答した人の理由の中では、「不妊や不育症治療をしていることを知られたくない」(63%)が最も多かった(Q21)。(図14~図18参照)
図14
図17
図18
<5>「退職」を選択した人の職場に不妊や不育症治療をサポートする制度等が「ない」(86%)(Q12×Q18)
職場に不妊や不育症治療をサポートする制度があると、「異動」や「休職」を選択はともに34%で、「退職」(7%)や「転職」(11%)より多い(Q12×Q18)。
不妊や不育症治療をサポートする制度で職場に望むことは、「休暇・休業制度(不妊や不育症治療が病欠・休職、有給扱いにされるなど)」(77%)が最も多く、続いて「就業時間制度(不妊や不育症治療による時短・フレックスタイム、正規からパートタイムなど雇用形態の一時的な変更が認められるなど)」(72%)、「不妊や不育症治療費に対する融資・補助」(52%)であった(Q24)。(図19~図21参照)
図19
図20
図21
<6>在宅ワークは、「仕事と治療の時間調整がしやすくなった」(84%)(Q28)
在宅ワークができることにより、不妊や不育症治療への取り組み方に変化が「ある」人は90%、「ない」人は10%であった(Q27)。
在宅ワークができることにより治療への取り組み方に変化が「ある」人からは、「仕事と治療の時間調整をしやすくなった」(84%)、「リモートワークだったので、病院の待ち時間に仕事の対応ができた」(17%)、「採卵後や服薬の副作用があった時など、体調不良の際も自宅で体を休めながら仕事ができた」「精神的な負担が減った」(ともに16%)などの声が上がった(Q28)。(図22~図23参照)
図22
図23
<7>自由記述コメントより
本アンケートの自由記述欄に寄せられたコメントを抜粋します。
◆仕事と不妊や不育症治療の両立のために働き方を変えざるをえなかった時の気持ち(Q14)
- まだいない赤ちゃんのために周りに迷惑をかけすぎ」と注意を受けた。(30~34歳女性・大阪府・正社員、正職員(技能:技術職)・医療、福祉)
- 最初は理解を示してもらえても、長期間になると難しい。(30~34歳女性・東京都・正社員、正職員(専門職)・メーカー、製造業、情報通信業)
- 責任ある立場で、体調不良ではなく治療のために急に休むことがストレスだった。職場の理解はあるが、自分自身でスケジュール通り思うように両立できない。優先するのはリミットもある不妊治療の方だと感じたので休職を選んだが、このまま治療が上手くいかなかったら収入はなく、どうしたらいいのか不安。(35~39歳女性・新潟県・正社員、正職員(一般職)・卸売業、小売業)
- 看護師の仕事をしながら、チームリーダー業務、委員会、夜勤もしていた。ホルモンバランスを整えなければいけないのに、夜勤が減らしてもらえなかった。体の負担の少ない病棟に異動したが、夜勤自体は減らず、また平日日中の受診が多かったので、夜勤明けでしか通院できないことも多々あった。(30~34歳女性・長野県・正社員、正職員(専門職)・医療、福祉)
- 不妊治療をすることは悪いことではないのに、急に受診しなければいけないことが続いた時に上司に「あなたのせいでみんなに迷惑がかかっている」と言われたこと。仕事は大好きだったので悲しかった。(40~44歳女性・山梨県・パート、アルバイト・医療、福祉)
◆職場で「不妊や不育症治療をしている」ということを、周囲に話しづらい(話しづらかった)理由(Q17)
- まだまだ不妊治療に対する偏見も強い。「そんな不自然な方法で子ども作るの怖くない?」「不妊治療はエゴ」「障害のある子どもが生まれたら可哀想」「なんで養子にしないの?血の繋がった子どもじゃなくても良いのでは?」「自然妊娠ができないということは、子孫を残す必要がないということなので自然淘汰されるべき」など、こちらの心情も事情も無視した言葉を一方的に浴びせられることもあった。(30~34歳女性・兵庫県・正社員、正職員(総合職)・メーカー、製造業、情報通信業)
- 妊娠している人が上司からマタハラ発言を受けていて、不妊治療中であることを会社に伝えたくなくなった。(30~34歳女性・愛知県・正社員、正職員(専門職)・メーカー、製造業、情報通信業)
- 休暇や早退が多くなるため話さないわけにはいかないが、陰で噂されたり、好奇の目で見られたり、本当につらかった。(45~49歳女性・大阪府・正社員、正職員(一般職)・メーカー、製造業、情報通信業)
- そもそも不妊症についての正しい認識が周りにはなく、性交すれば必ずできるもの=夫婦不仲なのではと誤解されたり、話しても無意味だと感じるくらい無神経な人がいた。(35~39歳女性・北海道・正社員、正職員(専門職)・医療、福祉)
- どこまで話していいものか、わからない。相手も反応に困るのではないかと思った。また、話すことによって自分が不利な状況にならないか不安。(30~34歳女性・北海道・パート、アルバイト・医療、福祉)
◆在宅ワークができることにより変化した内容(Q28)
- 採卵翌日などまだ動くと腹痛が強い場合でも、在宅ワークで(仕事が)できることにより欠勤せずに1日働くことができる。8時間ごとに入れなければいけない膣剤や、冷蔵保存の点鼻薬を、在宅ワークであれば安心した環境下で時間通りに使うことができる。コロナに限らず風邪やインフルエンザが流行る時期にも、通勤電車や環境のあまりよくない社内で多数の人と接触することのない在宅ワークは、とても助かっている。(35~39歳女性・東京都・正社員、正職員(総合職)・メーカー、製造業、情報通信業)
- 診療の待ち時間に仕事ができるため、治療を理由とした休みが減った。(35~39歳女性・東京都・正社員、正職員(総合職)・学術研究、専門、技術サービス業)
- 通勤のストレスがない。(不妊にストレスは大きい)。通院で遅刻や早退した際に余計な詮索をされなくてすむ。着床や安定するまで、体調不良のときも家だと休み休み無理せず仕事ができた。(40~44歳女性・東京都・正社員、正職員(技能:技術職)・メーカー、製造業、情報通信業)
- 早退がしやすくなった。月に何度も早退していると、早退の理由を詮索されがちなため、在宅ワークにして、直属の上司にだけ早退申請をして、同僚には早退に気づかれず通院することが可能だった。(40~44歳女性・大阪府・正社員、正職員(一般職)・IT機器サービス業)
- 職場から病院は遠く、待ち時間も長いため通院時は会社に行くのが困難だったが、在宅ワークであればフレックスを使用すれば対応可能になった。(35~39歳女性・滋賀県・正社員、正職員(技能:技術職)・学術研究、専門、技術サービス業)
- 半日勤務、半日休暇による通院などが調整できて仕事上も体力的にもありがたかった。仕事にも集中できた。終わらない時は病院の待合でも作業ができるなど、メリットが大きかった。(40~44歳女性・神奈川県・正社員、正職員(一般職)・学術研究、専門、技術サービス業)
- 悪阻で気持ちが悪くても家にいることで気を使うストレスはなかった。少し出血があった時も移動中の心配などなくよかった。(35~39歳女性・兵庫県・正社員、正職員(総合職)・運輸業、郵便業)
◆国や社会に対して望むこと(Q38)
- 生理のこと、妊娠の仕組みや適齢期などもう少し具体的に学校教育の段階から男女ともに共通認識として持てるような教育が必要と感じる。女性はなんとなく年齢を意識したり、生理痛や体調の変化で嫌でも身体と向き合うことが多いが、夫をはじめ男性はそのような意識を持つ機会が乏しいのか、知識の段階で差がありすぎて妊活を始めるにも一苦労だった。(30~34歳女性・愛知県・正社員(休職中)・卸売業、小売業)
- 子どもがいないことで切ない、苦しい、悔しい思いをしながらも、がんばっている女性がいることを知り、認めて欲しい。子どもがいる人を先に返してあげたいからと残業を依頼されたことがあり、悔し涙を流した。この社会は独身女性と子どもがいない女性が下支えしてるのでは?と思うことすらある。子どもを産み育てることはもちろん尊いが、その陰でその分負担を負っている人がいることも認めてほしい。(35~39歳女性・秋田県・正社員、正職員(その他)・看護学校の教員)
- 反復性着床不全で、受精卵は正常に発達するがなかなか着床しない。この症状を抱えていると、移植6回の制限が厳しい。30代前半で、正常な胚を2度移植して上手く行かず、複数胚移植を一度、慢性子宮内膜炎の治療、着床の窓ズレを検査して一度、計4回の移植を経てようやく「反復性着床不全」として偽閉経療法に至った。採卵回数は11回。これであと2度しか保険適用の移植が残されないとなると厳しい。(35~39歳女性・東京都・正社員、正職員(総合職)・メーカー、製造業、情報通信業)
- もっと不妊治療への理解を広げてほしい。就活をしているが、不妊治療のことを話すとほぼ門前払い。治療以外の時間は全くの健康体なのに、不妊治療をしているというだけで評価が下がることが非常に悔しいし、不条理だと感じる。(35~39歳女性・埼玉県・正社員、正職員(総合職)・教育、学習支援業)
- 不妊治療で休む社員へのサポート体制の例を紹介してほしい。就業規則への記載を促してほしい。(35~39歳女性・岐阜県・嘱託、契約職員・教育、学習支援業)
<8> 回答者のプロフィール
回答者の性別は、女性が98%、男性が2%。年齢は30歳代が54%、40歳代が33%、20歳代が6%。居住地は、関東地区(1都3県)在住者が40%。(図24~図26参照)
NPO法人Fineファウンダー/理事 松本亜樹子のコメント
仕事をしながら不妊や不育症治療をした経験のある人の割合は95%で、この数字は前回調査(2017年)の96%とほぼ変わらない数字となりました。また、仕事と不妊や不育症治療の両立が困難で働き方を変えた人は全体の39%でした。前回調査では41%とこちらもほぼ変わらない結果です。働き方を変えた人のうち退職を選択した人は39%でした。前回調査では50%で、前々回調査(2014年)では57%であったことから少しずつ減ってきており、これは当事者にとって喜ばしい傾向であると言えます。しかしながら、治療期間が長くなるにつれて、両立が難しくなり働き方を変える人が増える傾向にあり、こちらは変わらず残念なことです。 「職場で治療をしていることを話している」人は65%(前回調査:65%)と横ばいで、3分の2近くが職場で治療のことを話しているという結果がでました。しかし、話してはいるものの「話しづらく感じている」人は依然として多く、81%に上りました(前回調査:81%)。職場において、不妊治療はまだ話しづらい雰囲気があることがこの数字からもわかります。アンケートのコメントでは「まだまだ不妊治療に対する偏見も強い。『そんな不自然な方法で子ども作るの怖くない?』『なんで養子にしないの?血の繋がった子どもじゃなくても良いのでは?』『自然妊娠ができないということは、子孫を残す必要がないということなので自然淘汰されるべき』など、こちらの心情も事情も無視した言葉を一方的に浴びせられることもあった」、「全スタッフの前で不妊治療していることを話せと言われつらかった」、「休暇や早退が多くなるため話さないわけにはいかないが、陰で噂されたり、好奇の目で見られたり、本当につらかった」など、業務上伝える必要はあるが、やはり話しづらい、話したくないという当事者の声が散見されました。不妊治療は2022年4月から保険適用となりましたが、保険適用による社会の不妊治療への意識の変化や、新型コロナウイルス禍におけるリモートワークの普及が、仕事と不妊治療の両立にどのような影響があったかと言うと、企業の中ではまだまだ理解が進んでいないという現状が明らかとなりました。 職場に不妊や不育症治療をサポートする制度があると回答したのは20%で、前回調査の6%に比べて大きく伸びており、制度を導入している職場が増えてきていることは、当事者にとって大変ありがたいことです。では制度をどれだけの人が利用しているかというと、「使った(使おうと思う)」人は60%と、その割合は前回調査とほぼ同じ(前回調査:59%)でした。せっかく制度があるのに使われていないのは勿体ないことであり、もしもそれが退職などにつながるようなら、企業として大きな損失につながりかねません。実際に、サポートする制度がない職場は退職を選んだ人が最も多かった(45%。Q12×Q18より算出。図20参照)という結果も出ています。制度の充実を図るとともに、すでに制度がある企業においても、当事者が制度を利用しやすくするための周知の徹底や職場の風土醸成等も、引き続いての課題と言えるでしょう。
また、職場にあるサポートと、職場に望むサポートを比較すると、前回調査との大きな差は「相談窓口の整備」(前回調査では文言が「カウンセリング機関の設置」)で、前回10%であったものが、25%と2.5倍に増えています。未だ話しづらいと感じている人が多いという背景からも、メンタル面で当事者をサポートする仕組みを求める人が増えていることがうかがえます。
仕事と治療の両立がしやすい働き方という観点からは、新型コロナウイルス禍で導入された在宅ワークができるようになったことにより、不妊や不育症治療への取り組み方に変化があった人が90%と大多数をしめました。新型コロナウイルスの収束とともに在宅ワークは減る傾向となっていますが、引き続き働き方を選択できるような取り組みに加え、医療や福祉のように在宅ワークが難しい職種に対しても、短時間勤務やフレックスタイム制など柔軟な働き方ができる仕組みが必要であると言えるでしょう。
調査概要
・ 調査目的:仕事をしながら不妊や不育症治療を受けている患者の現状を把握し、両立するためにはどのようなサポートが必要か明確にするため。またアンケート結果から当事者の声をまとめ、国に政策提言や要望書等を提出するため。
・ 調査期間:2023年6月1日~2023年8月15日
・ 調査方法:WEBアンケート。自由回答を含む43問
・ 対象者:不妊治療・不育治療を受けている(受けたことがある)すべての方
・ 回答数:1,067
・ 設問:
https://j-fine.jp/activity/enquate/shigoto2023.pdf
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(2024/01/24 14:55)