こちら診察室 あなたの知らない前立腺がん
男性にとって重要な前立腺とは?
~マイナーな臓器の役割~ 第2回
そもそも「前立腺という臓器なんて、聞いたことないよ!」と言う人も多いのではないでしょうか。確かに、心臓や胃、肺などのような臓器の名前は良く耳にします。一方で、前立腺という言葉が普段の話に出ることもあまりないでしょう。そう、前立腺は、マイナーな臓器と言ってもいいかもしれません。
前立腺と周囲の臓器
◇どこにあるの?
私が普段診療をしていて、「前立腺肥大症ですね」あるいは「前立腺がんの可能性がありますね」と言うと、「え、聞いたことはあるけど、どこにあるの?」とけげんな顔をされる方が少なくありません。そうした場合には、外来に備えている人体模型などを用いて、説明させていただきます。例えば、こんな風に。「前立腺は、男性の骨盤の一番底にある臓器で、尿道を取り囲むように存在しています、前立腺の中には精液の通り道もあるんですよ」
骨盤は、へその高さから脚の付け根までの部分を示します。前立腺は骨盤の最も深い所に位置していて、内部には、尿道とともに、精液が通る射精管という管が通っています。ちなみに、精液とは精巣でつくられた精子が精管という管を通って精嚢(せいのう)という袋に貯められたものと、前立腺でつくられた前立腺液が混ざったものをいいます。つまり、精嚢の中では精子と前立腺液が一緒になって貯められていて、射精の時は、精嚢から射精管を通って尿道に精液が射出されるのです。
◇精子のエネルギー源
前立腺がつくっている、前立腺液は何をしているのでしょうか。精子は、よくオタマジャクシに例えられますが、大きさは60マイクロメートル(0.06ミリメートル)ほどと非常に小さく、射精後には受精のために、長い道のりを旅していきます。しかし、エネルギーを補給するような口はありません。テレビ番組などで、精子がオタマジャクシのように動いている動画をご覧になった方もおられるかもしれません。その時に必要となるエネルギー源が、クエン酸と呼ばれる有機化合物を多く含む前立腺液なのです。「ほう、前立腺もなかなかやるな」と思った方もおられるとか、おられないとか…。
◇男性の重要な臓器
前立腺のすぐ近くにも、重要な構造物が存在しています。前立腺のすぐ下には、尿道括約筋という筋肉があり、前立腺を通り抜けた尿道を取り囲んでいます。この筋肉は、普段はしっかりと閉まっていますが、排尿(尿を出すこと)をするときだけ緩みます。私たちが、普段、尿をためることができるのは、この筋肉の役割によるものです。性機能、特に勃起に重要な役割を果たしている神経も前立腺に隣接するように存在しています。勃起に関する神経は、脊髄から骨盤の中に入って骨盤神経という名前になり、前立腺を取り囲むようにして走行し、勃起神経という名前で陰茎の中に入ります。ご理解いただけましたでしょうか? 前立腺は、それ自身が男性機能において重要な役割を果たすと同時に、排尿や性機能に重要な役割をしている筋肉や神経に密接した、男性にとってとても大切な臓器なのです。このため、私は前立腺を「男の急所」と言って紹介することが多いのです。
そもそも、前立腺という名前の由来は、 「前立」がぼうこうの前に存在することから、「腺」は、人体において分泌活動を行う組織、器官の呼称からきていると言われています。つまり、前立腺の名前の由来は「ぼうこうの前に存在する前立腺液を分泌する臓器」という意味なのです。(了)
小路 直(しょうじ・すなお) 東海大学医学部腎泌尿器科学領域教授
2002年 東京医科大学医学部医学科卒業、11年~13年 南カリフォルニア大学泌尿器科へ留学、東海大学医学部外科学系泌尿器科学准教授などを経て24年から現職、第7回泌尿器画像診断・治療技術研究会 最優秀演題賞。米国泌尿器科学会、日本泌尿器内視鏡学会:などに所属。著書に「名医に聞く『前立腺がん」の最新治療』(PHP出版)など。
(2024/12/26 05:00)
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