【イベントレポート】ひきこもり研究者×公的支援者×民間支援者、厚生労働省による「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~(素案)」への本音!
認定NPO法人ニュースタート事務局
主催者・川北稔准教授。名古屋引きこもり支援センター金山、ニュースタート事務局が語る、実際の支援と思いとは? 【このままでいいの? ひきこもりの理解と支援 第1回】で語られた内容をお伝えします。
現在は「ひきこもり」ブーム、裏腹に理解は画一化へ
12月8日(日)に名古屋市の会場にて、【このままでいいの? ひきこもりの理解と支援 第1回】と題したイベントが開催されました。
イベントの冒頭では、主催者である愛知教育大学の川北稔准教授より、開催の背景が語られました。
ニートの流行が過ぎ、書籍はひきこもり一色に
各問題に関する図書の刊行点数の推移(1998₋2023年):CiNiiをもとに集計
1990年代に注目を浴びはじめたひきこもり問題。
書籍の刊行数で見ると、ひきこもりをタイトルに掲げた書籍は、2000年代初めに一気に増えます。
2005年頃にはニートやフリーターが急浮上しますが、数年でどんどん刊行数を減らしていきます。
その中でひきこもりは一定の数を保ち続け、2010年代からは出版や報道はひきこもり一色になります。
2014年に第二次ブーム、そして2019年にひきこもりにまつわる2つの大きな事件が起こったのを受けて、2020年に第三次ブームと呼べる状況が起こります。
ニート、フリーター問題はなくなっていない
ですがこのようなブームとは関係なく、次の2つのグラフの通り、ニート(若年無業者)やフリーター(非正規労働者)の問題は変わらず存在しています。
15₋34歳の雇用者に占める非正規の割合の推移(1988₋2023年):「早わかり グラフでみる長期労働統計」から作成
各年齢層に占める無業者の割合(2000₋2023年):「労働力調査」から作成
2010年代前半までは、ひきこもり・ニート・非正規雇用に生活困窮、障害などの視点も加わり、若者の問題を多元的に捉える気運がありました。
しかし現在は、若者問題を指す言葉が「ひきこもり」に集約され、理解が画一化されてしまった印象があります。
ひきこもりを定義しない支援ハンドブック
厚生労働省が2025年1月に策定予定の「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」ですが、2024年10月に公表された素案でも、この特徴が表れています。
支援ハンドブック(素案)では、ひきこもりの定義は定めていません。
元々ひきこもりの定義に含まれていた、就労・就学・交遊の乏しさといった基準が明記されず、それぞれの人が自分を「ひきこもり」だと思えばひきこもりということになってしまいました。
若者の生きづらさを漠然と「ひきこもり」という言葉が吸収する風潮が表れています。
ひきこもりの浸透が、支援の選択肢を狭めてしまう?
さらに、ひきこもりの対応は「見守る」が主流となっている現状があります。
支援ハンドブック(素案)にも「就労や社会参加を支援のゴールにしない」とあり、「見守る」に対応が偏る、支援の選択肢をむしろ狭めてしまう懸念があります。
ひきこもりもニートも、原因や対策ではなく状態像を示す言葉ですので、そこを入口に、1人1人に合った理解や支援の中身を考えることが重要です。
「引きこもりの7割が自立できる」
続いて認定NPO法人ニュースタート事務局の二神能基理事・久世芽亜里から、支援の実情や、30年間の活動を通じて感じていることをお伝えしました。
二神能基(ニュースタート事務局)
実は自立できる力を持っているひきこもりたち
ニュースタートの支援は、平均9ヶ月の訪問で7割の方が寮や自立に動き、寮からは平均1年半で8~9割の方が自立していきます。
自立に至った実際の支援事例を挙げ、長期化高齢化していると親も本人も動きにくくなること、それでも親が背中を強く押せば動くこと、いざ動き出すと自立できる力を持っている人が多いことを説明しました。
支援者による見守る指導や、時間と共に親も本人も新しいことに踏み出すハードルが上がるなど、ひきこもりは長期化・高齢化に流れやすい環境にあります。
そこをいかに断ち切るか、持っている力を発揮できる環境に行くかが大切です。
就職しやすい時代になっている
自立のしやすさは、人手不足の時代になった影響も大きいでしょう。
例えばひきこもりが最初に注目されていた2000年頃は、就職氷河期で、仕事を見つけるのが難しかったのは確かです。
その頃のイメージを持ち続け、「自立は難しい」と思い込んでいる人が多いのも感じます。
今は仕事は見つけやすく、会社側も定着してほしいので、昔に比べてかなり丁寧に対応してくれます。
この意識の転換が、長くひきこもりに関わっている親や支援者ほど、必要です。
自立すると顔つきが変わる、笑顔が出てくる
支援ハンドブック(素案)には、就労を支援のゴールにしないと書かれています。
ですがきちんと自分でお金を稼ぎ、自立ができると、彼らの顔つきは変わってきます。
自信がついて、笑顔も出てきます。
せっかく仕事が見つかりやすい時代になったのです。
わが子を笑顔のある人生に送り出すことが、親の務めなのではないでしょうか。
ディスカッション、これからの支援に何が必要?
後半は、名古屋市ひきこもり地域支援センター金山のセンター長で、名古屋オレンジの会の山田孝介代表も加わり、ディスカッションを行いました。
左から川北稔、二神能基、久世芽亜里、山田孝介
寄り添いだけでは対応しきれない
(山田)寄り添い続けることだけで、様々な現実課題に対応できるわけではありません。
例えば酷い暴力が家庭内で生じているとすれば、まずは暴力を止めないと、まともな対話にもつながらないでしょう。
見守りましょうと言って、命にかかわるようなけがを負うような事態になっては意味がありません。
経済的な底つきにも同じことが言えると思います。
ハンドブックはよき当事者理解、よき支援者像の話になっていて、これはこれでいいと思うのですが「就労支援」をあそこまで厳しく言及してしまうのは疑問です。
例えばいい仕事があるから頑張りたいという、素朴な一面も人間にはあると思います。
大事なのは就労支援を否定するのではなく、どうしたら利用する人にとってメリットがあるかを検討すること、アップロードの視点が大切だと思います。
ひきこもりは倍増、我々は完敗した
(二神)ニュースタートは来年で支援活動を終了する予定です。
ひきこもりはずっと50万人くらいだったが、最新の調査ではほぼ150万人にまで増加してしまった。
ひきこもりを減らそうと30年間やってきたが、こういう結果になってしまった。
我々の現場では支援した7割以上、2,000人くらいを自立させてきて、部分的には何とかうまくやってきたけれども、全体に対する戦いでは完敗したと思っています。
それもあり、ここらへんでやめようという風に思いました。
「自立できる」と信じてもらえない
(久世)外部の方、特に他所の支援者とお話していて、「うちでは8割9割が自立する」と言っても、まず信じてもらえないんです。
そういう世界を見ていないからだろうと思い、講演では自立した事例をお伝えし、本のタイトル(ひきこもりの7割は自立できる)にもしたんですが、限度は感じています。
大半のひきこもりが自立する世界を知らない、信じることもできない。
その視点でハンドブックを作れば、当然ああなりますよね。
本心は「普通になりたい」、でも言えない
(二神)彼らは本当は就労して自立したい、普通になりたいと思っているんですよ。
ひきこもりは苦しかったとも言う。
そこの気持ちをきちんと見てあげて、そこに応えていかないといけない。
(久世)そういう奥の方に押し込めた本音は、ひきこもっている最中はなかなか出てきません。
実際に自立できて、または可能性が見えてきて、やっと言ってくれる。
当事者理解が大切とは言いますが、ひきこもっている最中の言葉だけでは難しいと思います。
「当事者理解を」だけでは親子共倒れ?
(山田)ざっくりとしたハンドブックの印象ですが、本人から何かしらのニーズが表明されるまで待ちましょうという感じに読めました。
時代の流れは「ケア」なので支援圧につながるようなことは避けるべき、ということはわかるのですが、素朴に人は期待をかけられたりお節介を受けたりすることで前に進む部分もあるような気がしています。
うつ病の人には頑張れと言ってはいけないという格言がありますが、ああいったものもケースバイケースだと思っています。
極端な考え方によって、背中を押されたい人が排除されるようでは、もったいないと思います。
実際、背中を押してほしかったという相談は少なからずあります。
あと、ひきこもる本人を支える家族の問題にあまり言及されていなかった点も気になりました。
親御さんにも、介護問題や経済問題といった、現実があります。
そういう観点もなしに、当事者理解だけの話をしていると、共倒れになってしまうかもしれない。
不登校からのワーキングプア
(山田)不登校の世界でも、今は不登校になりたいと言ったら、すぐ認めてもらえる社会になった。
そのことはいいんですが、出口戦略が乏しいと思います。
今私たちが支援現場で直面している問題は、義務教育後の社会参加です。
例えば通信制高校に入り、関係者のケアもあって良い人間関係に恵まれればいいのですが、どうもそこが怪しい。
義務教育期間中の不登校児童の卒業後については、あまり資料もないのでわからないのですが、厳しい状況下におかれている方も多いのではないかと思います。
不登校を認めることが入り口であるなら、その出口もきちっと考えておくべきだと思うのですがどうもそのあたりがはっきりしていない。
不登校経験者のワーキングプア問題は、5年後10年後に出てくるのではないかと思っています。
親の思いをどう受け止める?支援の多様化
(二神)親子の対話とよく言われるが、親子で向き合っている限り、問題は前に進まないと思います。
うちは支援を引き受けるかの線引きは、本人ではなく親。
自分で何とかしようという親の依頼は引き受けない、そこの諦めがついているかが大事。
(山田)私は家族会も作っているので、家族の思いも汲みながらやるようにしています。
例えば共依存の人で、子どもを引き離しすぎると、親が心配で眠れなくなったりして、そこをケアしつつやっている感じ。
ひきこもり支援センターの相談員でもあるので、立場の違いもあると思います。
(久世)ニュースタートは本人主体で考えるので、共依存ならなおさら、本人への悪影響があるので早く離して寮に入れようという判断になりますね。
こちらの考えに納得した親が申し込んでくるかたちです。
こういう色んな支援があることが、「支援の多様化」じゃないでしょうか。
互いの支援を見せ合う場を
(川北)今はコンビニに行けようが、働いた経験があろうが、「ひきこもり」一色にされてしまう、対応も一色になりかねないというのが、今日の問題意識だったわけです。
支援方針の違いなどが多様にあることによって、色々な提案ができると思います。
こういうふうに多様な立場、互いの支援を見せ合うような話し合いをしていくことが、一辺倒な支援に抗える形なのではと思いました。
どういう人を目の前にしているから、この支援になるんだという、すり合わせを色々な段階でできたらいいな、というのが願いです。
第2回は2月15日に開催!テーマは「貧困」
第2回のゲストは、原未来さん(滋賀県立大学教員。『見過ごされた貧困世帯の「ひきこもり」』著者)です。
山田孝介さんにも、第1回に引き続きディスカッションにご参加いただきます。
ひきこもり支援では多くの場合、親が子どもを支えることが前提になっています。
しかし家庭の貧困を抱えながら孤立する若者、本人も親も孤立したまま見過ごされてしまう事例は少なくありません。
自ら支援を求めない人の実情を共有しつつ、積極的にニーズをくみ取る支援や、親元から離れる居住支援などのあり方を展望します。
【第2回】親に頼れない・支援につながりにくい若者たちと「ひきこもり」
日時:2025年2月15日(土)13時00分~15時00分
会場:イオンコンパス名古屋駅前会議室 ROOM A(名古屋駅新幹線口徒歩3分)
主催:川北稔(愛知教育大学)
お申し込み:https://www.kokuchpro.com/event/94b24a9d6939f8fe329daeb06611090d/
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主催者・川北稔准教授。名古屋引きこもり支援センター金山、ニュースタート事務局が語る、実際の支援と思いとは? 【このままでいいの? ひきこもりの理解と支援 第1回】で語られた内容をお伝えします。
現在は「ひきこもり」ブーム、裏腹に理解は画一化へ
12月8日(日)に名古屋市の会場にて、【このままでいいの? ひきこもりの理解と支援 第1回】と題したイベントが開催されました。
イベントの冒頭では、主催者である愛知教育大学の川北稔准教授より、開催の背景が語られました。
ニートの流行が過ぎ、書籍はひきこもり一色に
各問題に関する図書の刊行点数の推移(1998₋2023年):CiNiiをもとに集計
1990年代に注目を浴びはじめたひきこもり問題。
書籍の刊行数で見ると、ひきこもりをタイトルに掲げた書籍は、2000年代初めに一気に増えます。
2005年頃にはニートやフリーターが急浮上しますが、数年でどんどん刊行数を減らしていきます。
その中でひきこもりは一定の数を保ち続け、2010年代からは出版や報道はひきこもり一色になります。
2014年に第二次ブーム、そして2019年にひきこもりにまつわる2つの大きな事件が起こったのを受けて、2020年に第三次ブームと呼べる状況が起こります。
ニート、フリーター問題はなくなっていない
ですがこのようなブームとは関係なく、次の2つのグラフの通り、ニート(若年無業者)やフリーター(非正規労働者)の問題は変わらず存在しています。
15₋34歳の雇用者に占める非正規の割合の推移(1988₋2023年):「早わかり グラフでみる長期労働統計」から作成
各年齢層に占める無業者の割合(2000₋2023年):「労働力調査」から作成
2010年代前半までは、ひきこもり・ニート・非正規雇用に生活困窮、障害などの視点も加わり、若者の問題を多元的に捉える気運がありました。
しかし現在は、若者問題を指す言葉が「ひきこもり」に集約され、理解が画一化されてしまった印象があります。
ひきこもりを定義しない支援ハンドブック
厚生労働省が2025年1月に策定予定の「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」ですが、2024年10月に公表された素案でも、この特徴が表れています。
支援ハンドブック(素案)では、ひきこもりの定義は定めていません。
元々ひきこもりの定義に含まれていた、就労・就学・交遊の乏しさといった基準が明記されず、それぞれの人が自分を「ひきこもり」だと思えばひきこもりということになってしまいました。
若者の生きづらさを漠然と「ひきこもり」という言葉が吸収する風潮が表れています。
ひきこもりの浸透が、支援の選択肢を狭めてしまう?
さらに、ひきこもりの対応は「見守る」が主流となっている現状があります。
支援ハンドブック(素案)にも「就労や社会参加を支援のゴールにしない」とあり、「見守る」に対応が偏る、支援の選択肢をむしろ狭めてしまう懸念があります。
ひきこもりもニートも、原因や対策ではなく状態像を示す言葉ですので、そこを入口に、1人1人に合った理解や支援の中身を考えることが重要です。
「引きこもりの7割が自立できる」
続いて認定NPO法人ニュースタート事務局の二神能基理事・久世芽亜里から、支援の実情や、30年間の活動を通じて感じていることをお伝えしました。
二神能基(ニュースタート事務局)
実は自立できる力を持っているひきこもりたち
ニュースタートの支援は、平均9ヶ月の訪問で7割の方が寮や自立に動き、寮からは平均1年半で8~9割の方が自立していきます。
自立に至った実際の支援事例を挙げ、長期化高齢化していると親も本人も動きにくくなること、それでも親が背中を強く押せば動くこと、いざ動き出すと自立できる力を持っている人が多いことを説明しました。
支援者による見守る指導や、時間と共に親も本人も新しいことに踏み出すハードルが上がるなど、ひきこもりは長期化・高齢化に流れやすい環境にあります。
そこをいかに断ち切るか、持っている力を発揮できる環境に行くかが大切です。
就職しやすい時代になっている
自立のしやすさは、人手不足の時代になった影響も大きいでしょう。
例えばひきこもりが最初に注目されていた2000年頃は、就職氷河期で、仕事を見つけるのが難しかったのは確かです。
その頃のイメージを持ち続け、「自立は難しい」と思い込んでいる人が多いのも感じます。
今は仕事は見つけやすく、会社側も定着してほしいので、昔に比べてかなり丁寧に対応してくれます。
この意識の転換が、長くひきこもりに関わっている親や支援者ほど、必要です。
自立すると顔つきが変わる、笑顔が出てくる
支援ハンドブック(素案)には、就労を支援のゴールにしないと書かれています。
ですがきちんと自分でお金を稼ぎ、自立ができると、彼らの顔つきは変わってきます。
自信がついて、笑顔も出てきます。
せっかく仕事が見つかりやすい時代になったのです。
わが子を笑顔のある人生に送り出すことが、親の務めなのではないでしょうか。
ディスカッション、これからの支援に何が必要?
後半は、名古屋市ひきこもり地域支援センター金山のセンター長で、名古屋オレンジの会の山田孝介代表も加わり、ディスカッションを行いました。
左から川北稔、二神能基、久世芽亜里、山田孝介
寄り添いだけでは対応しきれない
(山田)寄り添い続けることだけで、様々な現実課題に対応できるわけではありません。
例えば酷い暴力が家庭内で生じているとすれば、まずは暴力を止めないと、まともな対話にもつながらないでしょう。
見守りましょうと言って、命にかかわるようなけがを負うような事態になっては意味がありません。
経済的な底つきにも同じことが言えると思います。
ハンドブックはよき当事者理解、よき支援者像の話になっていて、これはこれでいいと思うのですが「就労支援」をあそこまで厳しく言及してしまうのは疑問です。
例えばいい仕事があるから頑張りたいという、素朴な一面も人間にはあると思います。
大事なのは就労支援を否定するのではなく、どうしたら利用する人にとってメリットがあるかを検討すること、アップロードの視点が大切だと思います。
ひきこもりは倍増、我々は完敗した
(二神)ニュースタートは来年で支援活動を終了する予定です。
ひきこもりはずっと50万人くらいだったが、最新の調査ではほぼ150万人にまで増加してしまった。
ひきこもりを減らそうと30年間やってきたが、こういう結果になってしまった。
我々の現場では支援した7割以上、2,000人くらいを自立させてきて、部分的には何とかうまくやってきたけれども、全体に対する戦いでは完敗したと思っています。
それもあり、ここらへんでやめようという風に思いました。
「自立できる」と信じてもらえない
(久世)外部の方、特に他所の支援者とお話していて、「うちでは8割9割が自立する」と言っても、まず信じてもらえないんです。
そういう世界を見ていないからだろうと思い、講演では自立した事例をお伝えし、本のタイトル(ひきこもりの7割は自立できる)にもしたんですが、限度は感じています。
大半のひきこもりが自立する世界を知らない、信じることもできない。
その視点でハンドブックを作れば、当然ああなりますよね。
本心は「普通になりたい」、でも言えない
(二神)彼らは本当は就労して自立したい、普通になりたいと思っているんですよ。
ひきこもりは苦しかったとも言う。
そこの気持ちをきちんと見てあげて、そこに応えていかないといけない。
(久世)そういう奥の方に押し込めた本音は、ひきこもっている最中はなかなか出てきません。
実際に自立できて、または可能性が見えてきて、やっと言ってくれる。
当事者理解が大切とは言いますが、ひきこもっている最中の言葉だけでは難しいと思います。
「当事者理解を」だけでは親子共倒れ?
(山田)ざっくりとしたハンドブックの印象ですが、本人から何かしらのニーズが表明されるまで待ちましょうという感じに読めました。
時代の流れは「ケア」なので支援圧につながるようなことは避けるべき、ということはわかるのですが、素朴に人は期待をかけられたりお節介を受けたりすることで前に進む部分もあるような気がしています。
うつ病の人には頑張れと言ってはいけないという格言がありますが、ああいったものもケースバイケースだと思っています。
極端な考え方によって、背中を押されたい人が排除されるようでは、もったいないと思います。
実際、背中を押してほしかったという相談は少なからずあります。
あと、ひきこもる本人を支える家族の問題にあまり言及されていなかった点も気になりました。
親御さんにも、介護問題や経済問題といった、現実があります。
そういう観点もなしに、当事者理解だけの話をしていると、共倒れになってしまうかもしれない。
不登校からのワーキングプア
(山田)不登校の世界でも、今は不登校になりたいと言ったら、すぐ認めてもらえる社会になった。
そのことはいいんですが、出口戦略が乏しいと思います。
今私たちが支援現場で直面している問題は、義務教育後の社会参加です。
例えば通信制高校に入り、関係者のケアもあって良い人間関係に恵まれればいいのですが、どうもそこが怪しい。
義務教育期間中の不登校児童の卒業後については、あまり資料もないのでわからないのですが、厳しい状況下におかれている方も多いのではないかと思います。
不登校を認めることが入り口であるなら、その出口もきちっと考えておくべきだと思うのですがどうもそのあたりがはっきりしていない。
不登校経験者のワーキングプア問題は、5年後10年後に出てくるのではないかと思っています。
親の思いをどう受け止める?支援の多様化
(二神)親子の対話とよく言われるが、親子で向き合っている限り、問題は前に進まないと思います。
うちは支援を引き受けるかの線引きは、本人ではなく親。
自分で何とかしようという親の依頼は引き受けない、そこの諦めがついているかが大事。
(山田)私は家族会も作っているので、家族の思いも汲みながらやるようにしています。
例えば共依存の人で、子どもを引き離しすぎると、親が心配で眠れなくなったりして、そこをケアしつつやっている感じ。
ひきこもり支援センターの相談員でもあるので、立場の違いもあると思います。
(久世)ニュースタートは本人主体で考えるので、共依存ならなおさら、本人への悪影響があるので早く離して寮に入れようという判断になりますね。
こちらの考えに納得した親が申し込んでくるかたちです。
こういう色んな支援があることが、「支援の多様化」じゃないでしょうか。
互いの支援を見せ合う場を
(川北)今はコンビニに行けようが、働いた経験があろうが、「ひきこもり」一色にされてしまう、対応も一色になりかねないというのが、今日の問題意識だったわけです。
支援方針の違いなどが多様にあることによって、色々な提案ができると思います。
こういうふうに多様な立場、互いの支援を見せ合うような話し合いをしていくことが、一辺倒な支援に抗える形なのではと思いました。
どういう人を目の前にしているから、この支援になるんだという、すり合わせを色々な段階でできたらいいな、というのが願いです。
第2回は2月15日に開催!テーマは「貧困」
第2回のゲストは、原未来さん(滋賀県立大学教員。『見過ごされた貧困世帯の「ひきこもり」』著者)です。
山田孝介さんにも、第1回に引き続きディスカッションにご参加いただきます。
ひきこもり支援では多くの場合、親が子どもを支えることが前提になっています。
しかし家庭の貧困を抱えながら孤立する若者、本人も親も孤立したまま見過ごされてしまう事例は少なくありません。
自ら支援を求めない人の実情を共有しつつ、積極的にニーズをくみ取る支援や、親元から離れる居住支援などのあり方を展望します。
【第2回】親に頼れない・支援につながりにくい若者たちと「ひきこもり」
日時:2025年2月15日(土)13時00分~15時00分
会場:イオンコンパス名古屋駅前会議室 ROOM A(名古屋駅新幹線口徒歩3分)
主催:川北稔(愛知教育大学)
お申し込み:https://www.kokuchpro.com/event/94b24a9d6939f8fe329daeb06611090d/
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(2024/12/25 10:00)
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