治療・予防

生殖医療での男性の権利
~紛争防止、子の福祉にも(大阪大学大学院 村岡悠子招聘教員)~

 社会の変化や初産年齢の高齢化に伴い、体外受精や顕微授精など生殖補助医療への関心が高まっている。一方、不妊治療で得た凍結胚(受精卵)を、夫婦関係の悪化後に女性が男性に無断で移植して出産し、裁判になる事例が複数発生している。男性の同意の重要性について、弁護士で大阪大学大学院医学系研究科(大阪府吹田市)「医の倫理と公共政策学」講座の村岡悠子招聘(しょうへい)教員に聞いた。

男性の同意の有無が問題となった場面

男性の同意の有無が問題となった場面

 ◇男性の同意が争点に

 トラブルの背景には、男性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する社会の認識不足があるという。

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは、性と生殖に関して自分の体に関わることを自ら選択し、決定する権利だ。女性が自分の望む時期に妊娠する権利もその一つ。妊娠・出産は女性の身に起こるため女性の権利だととらえられがちだが、「生殖補助医療が発達した現代では、男性の権利・義務についても社会への周知と議論が必要です」

 村岡招聘教員や同講座の加藤和人教授らの研究グループは、過去の裁判例から生殖補助医療の過程で男性の同意の有無が問題となった場面は「精子提供時」「融解胚移植時」「精子・凍結胚の廃棄時」の三つに分類できるとした。

 現状は、日進月歩の生殖補助医療に法整備が追い付いていない。2020年に成立した法律は、第三者の精子提供を受ける際の「夫の同意」を定める一方、パートナー間では男性の同意がいつ、どの場面で必要か定めておらず、課題となっている。

 ◇女性と子も権利確保

 裁判では、融解胚移植時の同意なく誕生した子どもも、男性との法的な親子関係が認められている。しかし、無断での胚の使用は、子どもをいつ、誰との間にもうけるかという男性の自己決定権の侵害に当たり、女性側に損害賠償義務が発生する場合も。

 ただし、不妊治療のために病院へ行くのは多くが女性だという報告があるなど、「同意が必要となる場面に、男性がいないケースが少なくない点も見逃せません。男性の当事者意識の希薄さが一因でしょう。女性が生み育てるものだという、古典的役割分担意識の存在も透けて見えます」。

 男性の権利に関する議論の広まりが、「紛争の防止、さらには子どもを望む女性の権利を守る鍵となります」。

 また、生まれてくる子どものためにも法整備が急がれる。「生殖の『権利』を男性が自分ごととして捉えることは、子の福祉を守る男性の『義務』の明確化にもつながります。まずはパートナーと話をしてみてください」と村岡招聘教員は提案している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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