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生理はつらくて当たり前?

 月経痛の治療を希望して来院する女性に、「痛みがあるとき、普段はどのように対処していますか?」と質問します。すると「薬に頼らず、我慢していました」と答える方が少なくありません。

 この答えには、痛みに対するさまざまな不安や心配が背景にあることが多いです。例えば、「痛み止めを使い続けると癖になってしまうのではないか」「この程度の痛みで薬を飲んでよいのだろうか」といった思いを抱えている方も多く見受けられます。確かに、痛みの感じ方は個々の体や状況により異なるため、一概に「痛みに対してこうすべきだ」と決めるのは難しい部分があります。

 しかし、痛みで勉強や仕事に集中できない、スポーツで本来の力を発揮できないといった状況が続くなら、痛みを我慢せずに緩和することが非常に大切です。我慢には実際のところ、ほとんどメリットがなく、むしろ心身に悪影響を及ぼすことがしばしばです。痛みを放置してしまうと日常の活動が制限され、生活の質が大きく低下する可能性もあります。

痛みを我慢し続けると、痛みに対して敏感になる(イメージ画像)

痛みを我慢し続けると、痛みに対して敏感になる(イメージ画像)

 ◇痛み我慢はデメリットだらけ、早め対処を

 痛みを我慢すると、以下のようなさまざまなデメリットが生じかねません。

 ● 勉強や仕事に集中できなくなるため、日常生活のパフォーマンスが低下してしまう
 ● 本来の実力を発揮できなくなり、特にスポーツや試験などでの結果に影響を及ぼす
 ● 痛みに対して過敏になり、さらに強く痛みを感じることがある
 ● ストレスにより血圧が上昇し、心身の負担が増える

 我慢し続けることで痛みに対して敏感になり、結果として痛みが増幅されてしまうという事実は、あまり知られていないかもしれません。痛みが強まってしまうのは非常につらいですし、我慢することで状況が悪化してしまうのは避けたいですよね。

 現代の医療においては、術後やがん性の痛みに対しても無理に我慢せず、積極的に痛みを緩和することが一般的な治療方針とされています。それと同じように、月に1度訪れる生理痛についても我慢する必要はまったくありません。痛みを感じたときには適切に対処することが重要です。

 さらに、痛みがひどくなってから鎮痛薬を服用しても、薬の効果が表れるまでに時間がかかってしまい、十分な効き目を得られないことがあります。鎮痛薬は痛みを感じ始める前や、痛みが出た直後に早めに服用することで、その効果を最大限に発揮できます。特に生理痛の場合、痛みがひどくなる前に服用すれば、日常生活への影響を最小限に抑えられるのです。

信頼している人や大切な人とのハグは痛みの緩和に効果がある(イメージ画像)

信頼している人や大切な人とのハグは痛みの緩和に効果がある(イメージ画像)

 ◇効果もたらす生活習慣とセルフケア

 実は、月経痛を強める要因として、不安や不眠、貧血、そして日々のストレスが大きく関わっていることが知られています。これらの要因が重なり、痛みがさらに増してしまう場合があります。反対に、十分な睡眠や栄養バランスの取れた食事、適度な運動、リラックスした時間を取れば月経痛を軽減する効果が期待できます。

 特に、友人や家族といった信頼できる人々との交流が心身に良い影響を与えるとされています。中でも、信頼している人や大切な人とのハグは、ストレスホルモンを減少させてリラックス感を高め、痛みの緩和に大きな効果があると言われています。

 ただし、ここで紹介した痛みの緩和方法は、あくまで一時的なものであり、根本的な解決にならないことに注意が必要です。月経痛が強く続く場合、背後に子宮内膜症やその他の婦人科系の疾患が隠れている可能性もあります。これらの病気は専門的な診断と治療が必要になることが多いため、医師の診察を受けましょう。

 さらに、最近では鎮痛剤の自己投与が社会的な問題となりつつあります。痛みがあるたびに自己判断で鎮痛剤を服用することが習慣化してしまい、薬の効果を次第に感じにくくなったり、薬を飲まないと不安になるという依存的な状態に陥ったりするケースが懸念されています。鎮痛剤は適切な使用方法により高い効果を発揮しますが、使用法を誤ったり、痛みが改善されないまま過剰に服用したりすると、体に負担をかけることにもなりかねません。鎮痛剤を使用しても痛みが和らがない、あるいは服用を不安に感じる場合には、早めに医師に相談してください。

 ◇水泳競技に打ち込む高校生治療

 ここからは実際に受診した患者さんのケースを紹介します。今回の患者さんは高校生の水泳選手で、生理痛と月経不順の治療を希望していました。彼女は試合と月経のタイミングが重なり、パフォーマンスに悪影響が出るのではないかという不安を抱えていました。さらに、問診票には彼女が28週で生まれた出生体重1800グラムの早産児であること、未熟児網膜症の既往歴があることが記載されていました。治療方針の決定には、こうした複数の要因を慎重に考慮する必要がありました。

 具体的な治療法としては、まず彼女の生活や競技パフォーマンスを支えるために、漢方薬やホルモン剤の使用を提案しました。水泳というハードな競技でパフォーマンスが最大限に発揮できるように、月経周期を調整するためのフレックス投与が可能なピルについても説明しました。試合や練習のスケジュールに合わせて月経周期をコントロールできる選択肢は、彼女の不安を大きく軽減する手助けとなりました。処方を行う前に、彼女と母親が一緒に説明動画を視聴する機会を設け、ピルの効果や使い方に関する理解・不安解消につなげました。

 また、母親の心配にもしっかりと耳を傾けました。母親は過去に、子宮頸(けい)部の一部を円すい状に切除する手術を受けており、早産のリスクやピルの影響を懸念していました。そこで、円すい切除と早産の関連性について説明し、さらに子宮頸がん予防のためにワクチン接種の重要性にも触れました。その際、ピルとワクチンが両立するのかに関して母親から質問がありましたが、「ピルを服用していても、ワクチン接種に問題はありません」と自信を持って回答しました。こうした一連のやりとりにより親子双方が安心感を抱き、治療に前向きに取り組んでくれました。

 競技スポーツに打ち込む若い選手にとって、月経の問題は競技成績や生活の質に大きな影響を及ぼす場合があります。適切な治療とサポートがあれば、健康管理をしながらパフォーマンスを維持し、日常生活でも快適に過ごすことが可能です。(了)

沢岻美奈子院長

沢岻美奈子院長

沢岻美奈子(たくし・みなこ)
 琉球大学医学部を卒業後、産婦人科医として25年以上の経歴を持つ。2013年1月、神戸市に女性スタッフだけで乳がん検診を行う沢岻美奈子女性医療クリニックを開院。院長として、乳がんにとどまらず、女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く手掛ける。女性のヘルスリテラシー向上に向け、インスタグラムやポッドキャスト番組「女性と更年期の話」で、診察室での患者とのリアルなやりとりに基づいたストーリーを伝えている。
 日本産科婦人科学会専門医、女性医学学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、乳腺超音波認定医、オーソモレキュラー認定医。漢方茶マイスター。

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