治療・予防 2024/12/27 05:00
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復元力や回復力を表す「レジリエンス」という物理学の用語が心理学分野に広がり、精神医学分野でも注目されている。国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)では、気持ちが落ち込みやすいがん患者を対象に、病気を乗り越える力を引き出すための「レジリエンス外来」を開設した。精神腫瘍科の清水研科長に、同外来の役割や取り組みについて聞いた。
▽苦境乗り越える精神力
戦争や災害などで同じような逆境に置かれても、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する人としない人がいることなどから、心の回復力に注目が集まるようになり、レジリエンスという言葉が多用されるようになってきた。
「がんになると、人は人生設計を大幅に修正せざるを得なくなります。心が大混乱に陥るのも無理はありません。しかし、こうした苦難を乗り越える精神力、レジリエンスは誰にでも備わっているのです」と清水科長は説明する。
▽新たな世界観を発見
治療法はカウンセリングが主体となる。患者に、がんになる前の生活で大切にしていたことを振り返ってもらい、がんで失ったと感じていることをワークシートに記入してもらう。それを基に、週1回、約50分のカウンセリングを4~8回行う。そうした作業は、患者自身がなぜ混乱しているかを理解する手掛かりとなり、これから進もうとする道筋が見えてくるのだという。
例えば、同外来を受診した患者の事例。飲食店を営むAさんは、がんの手術後の経過が芳しくない中で転移が見つかり、落胆していた。清水科長は、自らを「生きるしかばね」と言うAさんに、これまでの人生を振り返ってもらうとともに、「生きるしかばね」の意味を問うた。
かつて反発しながらも尊敬していた父親が営む飲食店を継いだAさんは、商店会長を務めた人望の持ち主で、町内からの見舞客が絶えないこと、息子に店を継がせるまで自分の力がまだ必要なことなどを語った。話を聞き終えた清水科長は「あなたのどこが『生きるしかばね』なのですか」と改めて聞いた。すると、何かに気付いたようにAさんの表情は明るくなったという。
清水科長は、カウンセリングを「新たな世界観(価値観)を発見するために、共に悩むプロセス」と語る。患者ががんにより喪失した世界観と向き合いながら、がんと共に生きることに適応していく過程を支援し、気付いていなかった前向きな気持ちや、困難を乗り越える力を引き出すのが狙いだ。新たな世界観を見いだし、同外来を「卒業」した患者は20人を超えるという。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/07/31 16:00)
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