医学部トップインタビュー

産学公連携で地域活性化
学生の研究マインドを育成―山口大学医学部

 山口大学医学部は、1944年に県立医学専門学校として設立、県立医科大学を経て現在の国立大学となった。創立75周年の長い歴史の中で、山口県の地域医療を担ってきたほか、先進的な研究で多くの成果をあげてきた。近年は産学公連携を積極的に進め、地域活性化にも一役買っている。谷澤幸生医学部長は「山口は本州の最西端にある、いわゆる地方ですが、かつては明治維新にエネルギーを注いだ新進の気質と開拓の精神があります。その伝統を受け継いで、常に新しいものを発信していきたい」と話す。

インタビューに応える谷澤幸生医学部長

 ◇AIシステム医学の研究拠点

 同大学が現在最も力を入れているのが、2018年春に医学研究科と付属病院で設置した「AIシステム医学・医療研究教育センター」。人工知能(AI)を使った画像診断やビッグデータをもとにした診断はもとより、基礎研究を含めたシステムバイオロジーにAIを活用し、病因・病態のより深い理解と治療や診断などに応用する新たな技術の創出を目指す。

 「ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明所長を顧問に、情報工学の専門家である浅井義之教授をセンター長にそれぞれ迎えました。山口県をAIシステム医学の研究拠点とし、山口県の経済活性化にもつなげていきたい」と谷医学部長

 ◇「次世代CAR-T細胞療法」

 がんの免疫療法の一つであるCAR-T細胞療法をさらに発展させた「次世代CAR-T細胞」の研究開発を行っている。16年に文部科学省の地域イノベーション・エコシステム形成プログラムに採択され、新たな産業の創出につながる可能性を秘めている。

 CAR-T細胞療法とは、がんの患者からリンパ球を採取し、遺伝子を組み替えることで、がん細胞を攻撃する細胞にして患者の体に戻す治療法。一般的なCAR-T細胞の作製には約3~4週間かかるため、その間に病状が悪化する恐れがある。同大学の研究チームは、速やかに治療が開始できるよう、健康な人から取り出したリンパ球でCAR-T細胞を作製する手法を開発している。

 「白血病やリンパ腫には非常に有効ですが、それ以外の多くのがん(固形がん)への有効性が低かった。玉田教授らは固形がんをターゲットにした次世代CAR―T細胞を大手製薬メーカーと組んで開発中です。非常に高価な治療法ですが、1人の健康な人の細胞を使って大量に作製できるようになれば、大幅なコスト削減も可能です」

 このほか、骨髄細胞を使った肝臓の再生療法、局所脳冷却を用いた難治性てんかんや重症脳卒中を治療するデバイスの開発など、今後、日本のみならず世界をリードする可能性のある数々の研究が進行中だ。

山口大学医学部

 ◇学生が教員を評価

 教育カリキュラムでは、2001年より電子シラバスを導入し、機能別臓器別に講義を行うコース・ユニット制を採用している。電子シラバスにより、授業が終わったあと、学生がその日の学修目標をどの程度身に付けることができたかを自己評価をするとともに、授業内容についての評価もフィードバックできる。

 「この授業は面白かった」「資料が分かりやすかった」などの前向きな評価がある一方で、「自分の研究の話ばかりして何が大事なのか分からない」「板書してくれないから分からない」などの意見もあるという。

 「匿名なので、非常に率直な意見が届きます。学生がディプロマ・ポリシーに対して、どの部分が弱いのか、レーダーチャートのような形で示す機能も今年から導入しました。学生が自分自身を客観的に評価すると同時に教員の授業評価ができる。双方向で行うことで、教育の質の向上を目指しています」と谷澤医学部長は話す。

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