脳卒中〔のうそっちゅう〕 家庭の医学

 脳卒中には、脳の血管がつまってしまい、血液の流れに障害を生じる脳梗塞と、脳の血管がやぶれて、血液が脳に障害を与えてしまう脳出血の2種類があります。脳出血の発症は、高血圧とのかかわりが強く、脳梗塞は、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙などとのかかわりが強いといわれています。
 脳卒中の一般的な予防について、「脳卒中治療ガイドライン2021」では、高血圧、糖尿病、特に2型糖尿病の血圧の管理、脂質異常症の治療が、重要と述べています。予防が重要なのは、後遺症からくるQOLの低下の問題にあるといえます。脳卒中は、高齢期の認知症、寝たきりの最大の原因となっています。したがって、予防が重要で、このためには高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、慢性腎臓病(CKD)のコントロールが重要で、当然のことながらこれらの疾患の食事療法は大切です。1次予防、2次予防はもちろんですが、発症した場合には、早期にリハビリテーションをはじめ、からだの機能の回復・維持につとめること、嚥下(えんげ)障害がある場合の栄養補給、うつ状態の早期発見なども重要です。

■脳卒中の予防
 脳卒中合同ガイドライン委員会が作成した「脳卒中治療ガイドライン2021」では、具体的な食事療法は示していませんが、危険因子の管理として、高血圧、糖尿病、脂質異常症、飲酒・喫煙、心疾患(心房細動)、肥満・メタボリックシンドローム、慢性腎臓病(CKD)などをあげています。
 脳梗塞の発症そのものにも、糖尿病や脂質異常症などの血管を中心としたさまざまな病気が関与しています。喫煙、飲酒、肥満も同様です。
 これら脳卒中の予防に関与する疾患は、食事や生活習慣が深くかかわっています。

■脳卒中慢性期
 血圧の管理が重要となり、脳卒中の予防・治療の中心は食塩制限となります。一般に高食塩食は、低たんぱく食と結びつきやすく、エネルギーの過剰がない場合では、相対的にたんぱく質が不足して、低栄養になるリスクが高くなります。
 また、高齢期の脳出血の症例では、嚥下障害などによる食物摂取量の低下、味覚の感度の低下で、知らず知らずのうちに塩からいものを食べているという複合的な要因が見うけられます。やせを伴う低栄養状態を、見のがさないようにすることも重要です。
 後遺症として、嚥下障害がみられる場合は、「誤嚥(ごえん)性肺炎」の予防が重要となります。誤嚥性肺炎の予防には、食事の調製の工夫が大切です(下記嚥下障害参照)。
 したがって、脳卒中慢性期には栄養・食事の管理はきわめて重要な役割を果たしています。

■水分
 心疾患や腎疾患を合併して、医師から水分の制限を指示されていないかぎり、脱水(からだの水分が不足した状態)を防ぐために水分をとるよう心掛けます。この場合の水分は、水、麦茶、ほうじ茶、ウーロン茶などのように、砂糖が入っていないものが適切です。就寝前、入浴の前後、朝起きたときなどには、意識して水分をとるようにします。特に高齢者は、加齢によって、自然にからだの水分が少なくなっているので、脱水になりやすいのです。
 また、脳卒中の後遺症で、水がうまく飲めない、からだが不自由だとトイレにいくのが面倒であったり、介護者への遠慮などで、「水分を控えてしまう」例もあります。さらに、のどのかわきを伝えることができない例もあります。水分の不足は便秘の原因ともなり、療養の質を低下させてしまいます。介護者は脱水に注意をはらうようにします。

■食物受容能力の低下
□四肢の障害
 食事をするには、食事をするための姿勢がとれることや、手ではしやスプーンを使って食物を自分の口に入れることができる、料理の位置が認識できるなど、ふだん、無意識といえるくらい、ふつうにおこなっている動作が必要ですが、それができなくなります。このことは、本人にとっては受け入れ難い現実となる場合があります。人間としてのプライドを失わせることなく、食べることの自立の支援も重要です。食事をしやすい姿勢をとる工夫、食器やスプーンの工夫など、看護師やリハビリテーションセンターの技師に相談されるとよい助言が得られます。
 また、食事の工夫としては、食べやすい大きさや、つかみやすい大きさ、かたちに切る、口へ運ぶとき、ポタポタと水気が落ちないようにする、使いやすいはしやスプーン・フォークを選ぶなどの気遣いをするようにします。食べるときに、「これは熱いよ」「香辛料が強いよ」「すこしかたいよ」などと、伝えるようにすると、量を調節するなど、食べる準備をするのに役立ちます。

□嚥下障害
 誤嚥性肺炎による死亡は、高齢者では大きな問題です。誤嚥を予防することは高齢者介護の重要なポイントです。嚥下障害の原因によって、嚥下しにくいものが多少は違います。嚥下力は個人差が大きいので、病院で個人の嚥下能力を診断(嚥下評価)してもらい、食べ物のかたさや1回に口に入れる量などを決めるとよいのですが、なかなかそこまでいかない人も多いと思います。
 一般には水のような状態のもの(みそ汁やスープ)、かたさが違うものが混じっているもの(そぼろあん、ポタージュに入っているとうもろこし)、パサパサしたもの(焼いた肉をそのままほぐしたもの)、かためのビスケットなどが食べにくいといわれています。また、酸味の強い食品や料理は、むせを起こします。
 片栗粉、小麦粉(ルーにする)などで、とろみをつけたり、マヨネーズや油を使って、ねっとりさせたり、ゼラチン(嚥下能力によっては寒天)を使って、固めたりすると食べやすくなります。水分を加熱せずにとろみがつけられる、とろみ剤も市販されています。
 最近では、介護製品を販売しているところで、嚥下障害のある人のための水やペースト状にした料理を売っていますので利用すると便利です。また、口から食事ができなくなった場合は、鼻腔(びくう)や胃に穴を開け(胃瘻〈いろう〉造設)、そこからチューブで液体の栄養剤(経腸栄養剤)を入れる方法もあります。
 胃瘻造設は、鼻から管を入れる方法にくらべ本人の負担が比較的少なく、嚥下障害のある場合に、家庭でもおこなわれている方法です。ただ、この方法は、食べる楽しみはありませんので、医療スタッフから胃瘻の造設の相談を受けた場合には、家族も含め予後(病気の回復や社会復帰等)やQOLなどを考えて決めるようにします。また、胃瘻でも胃食道逆流が起こり、誤嚥をする場合もありますので、栄養剤を入れた後の見守りも大切です。
 誤嚥は肺炎のリスクだけでなく、「窒息死」のリスクもあります。嚥下障害は、摂食量が少なくなりがちになり、低栄養のリスクともなります。嚥下訓練や嚥下食の調製は、医療機関で、専門の医療スタッフの指導のもとにおこなうことも重要です。

□口腔ケア
 口の中を清潔に保つことは、口腔(こうくう)内の細菌の増殖を抑える、という医療面での重要性だけでなく、食欲にも影響を与えます。また、嚥下障害のある場合では、口腔内に食べ物が残っていることに気づかず、食後、時間をおいてから、口の中に残っていた食べ物を飲み込んで誤嚥してしまい、窒息するという事故につながることがあります。
 また、嚥下障害のある人は、うがいができないので、歯をみがくのが、むずかしいことがあります。歯科衛生士さんに相談すると、障害のある場合の口腔衛生の方法について、助言が受けられます。

(執筆・監修:女子栄養大学 実習特任講師 茂木さつき)