脳卒中〔のうそっちゅう〕

 脳卒中には、脳の血管がつまってしまい、血液の流れに障害を生じる脳梗塞と、脳の血管がやぶれて血液が脳に障害を与えてしまう脳出血の2種類があります。脳出血の発症は高血圧とのかかわりが強く、脳梗塞は高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙などとのかかわりが強いといわれています。
 脳卒中の一般的な予防について「脳卒中治療ガイドライン2015」では、高血圧、糖尿病、特に2型糖尿病の血圧の管理、脂質異常症の治療が重要と述べています。予防が重要性なのは後遺症からくるQOLの低下の問題にあるといえます。脳卒中は高齢期の認知症、寝たきりの最大の原因となっています。脱水予防を含めた1次予防はもちろんですが、発症した場合には早期にリハビリテーションをはじめ、からだの機能の回復・維持につとめること、嚥下(えんげ)障害がある場合の栄養補給、うつ状態の早期発見なども重要です。

■脳梗塞慢性期
 脳卒中合同ガイドライン委員会が作成した「脳卒中治療ガイドライン2015」では、具体的な食事療法は示していませんが、危険因子の管理と再発予防の項で次の6点をあげています。いずれも食事の管理が重要な疾患や生活習慣です。
1.高血圧
 脳梗塞の再発予防では、降圧療法(薬物療法などで血圧を最適な状態に維持すること)が推奨される。目標とする血圧レベルは、少なくとも140/90mmHg未満とするよう強くすすめられる。ただし、75歳以上の後期高齢者は160/90mmHg未満をすすめられる。
2.糖尿病
 再発予防に糖尿病のコントロールを考慮してもよい。
3.脂質異常症
 高用量のスタチン系の薬剤(脂質異常症に用いられる薬)は脳梗塞の再発予防にすすめられる。
4.飲酒・喫煙
 大量の飲酒、喫煙、受動喫煙は脳卒中発症のリスクファクターであるが、再発予防には言及できない。しかし「禁煙を考慮してもよい」としている。
5.メタボリックシンドローム・肥満
 肥満、内臓肥満を背景とするメタボリックシンドロームは脳梗塞の危険因子であり、再発予防にもその管理を考慮してもよい。
6.心房細動
 心房細動(心臓のけいれんのようなもの)は脳梗塞発症の重大なリスクファクターで、再発予防にはワルファリンによる抗凝固療法をおこなうことが強くすすめられる。
 ガイドラインの内容からは、高血圧・心房細動以外は危険因子として重要度が低いという印象があるかもしれませんが、脳梗塞の発症そのものに、糖尿病や脂質異常症などの血管を中心としたさまざまな病気が関与しています。喫煙、飲酒、肥満も同様です。これらの疾患は、食事や生活習慣が深くかかわっています。後遺症として嚥下障害がみられる場合は「誤嚥性肺炎」の予防が重要となります。誤嚥性肺炎の予防には、食事の調製の工夫が大切です(誤嚥性肺炎)。したがって、脳梗塞慢性期には栄養・食事の管理はきわめて重要な役割を果たしています。
 最後に、このガイドラインはあくまで脳梗塞の再発だけからみた場合のものです。糖尿病や脂質異常症などの疾患を有している人は、これらのコントロールが重要となることはいうまでもありません。それぞれの疾患と食事については、それぞれの疾患の項をお読みください。

■脳出血
 脳卒中合同ガイドライン委員会が作成した「脳卒中治療ガイドライン2015」では、具体的な食事療法は示しておりませんが、脳出血発症のリスクファクターとして、高血圧、飲酒をあげています。
 脳梗塞と同様に血圧の管理が重要となり、脳出血の予防・治療の中心は食塩制限となります。一般に高食塩食は低たんぱく食と結びつきやすく、エネルギーの過剰がない場合では相対的にたんぱく質が不足して低栄養になるリスクが高くなります。また、高齢期の脳出血の症例では、嚥下(えんげ)障害などによる食物摂取量の低下、味覚の感度の低下で知らず知らずのうちに塩からいものを食べているという複合的な要因が見うけられます。やせを伴う低栄養状態を見のがさないようにすることも重要です。

■水分
 心疾患や腎疾患を合併して医師から水分の制限を指示されていないかぎり、脱水(からだの水分が不足した状態)を防ぐために水分をとるよう心掛けます。この場合の水分は、水、麦茶、ほうじ茶、ウーロン茶などのように砂糖が入っていないものが適切です。就寝前、入浴の前後、朝、目がさめたあとなどには意識して水分をとるようにします。特に高齢者は、加齢によって自然にからだの水分が少なくなっているので、脱水になりやすいのです。
 また、脳卒中の後遺症で、水がうまく飲めない、からだが不自由だとトイレにいくのが面倒であったり、介護者への遠慮などで「水分を控えてしまう」例もあります。さらに、のどのかわきを伝えることができない例もあります。水分の不足は便秘の原因ともなり、療養の質を低下させてしまいます。

■食物受容能力の低下
□四肢の障害
 食事をするには、食事をするための姿勢がとれることや、手ではしやスプーンを使って食物を自分の口に入れることができる、料理の位置が認識できるなど、ふだん、無意識といえるくらいふつうにおこなっている動作が必要ですが、それができなくなります。このことは、本人にとっては受け入れ難い現実となる場合があります。人間としてのプライドを失わせることなく、食べることの自立の支援も重要です。食事をしやすい姿勢をとる工夫、食器やスプーンの工夫など、看護師やリハビリテーションセンターの技師に相談されるとよい助言が得られます。
 また、食事の工夫としては、食べやすい大きさやつかみやすい大きさ、かたちに切る、口へ運ぶときポタポタと水気が落ちないようにするなどの気遣いをするようにします。食べるときに、「これは熱いよ」「香辛料が強いよ」「すこしかたいよ」などと伝えるようにすると、量を調節するなど、食べる準備をするのに役立ちます。

□嚥下(えんげ)障害
 誤嚥(ごえん)性肺炎による死亡は高齢者では大きな問題です。誤嚥を予防することは高齢者介護の重要なポイントです。嚥下障害の原因によって嚥下しにくいものが多少は違います。嚥下力は個人差が大きいので、病院で個人の嚥下能力を診断(嚥下評価)してもらい、食べ物のかたさや1回に口に入れる量などを決めるとよいのですが、なかなかそこまでいかない人も多いと思います。一般には水のような状態のもの(みそ汁やスープ)、かたさが違うものが混じっているもの(そぼろあん、ポタージュに入っているとうもろこし)、パサパサしたもの(焼いた肉をそのままほぐしたもの)、かためのビスケットなどが食べにくいといわれています。また、酸味の強い食品や料理はむせを起こします。
 市販のとろみ剤、片栗粉、小麦粉(ルーにする)などでとろみをつけたり、マヨネーズや油を使ってねっとりさせたり、ゼラチン(嚥下能力によっては寒天)を使って固めたりすると食べやすくなります。
 最近では、介護製品を販売しているところで嚥下障害のある人のための水やペースト状にした料理を売っていますので利用すると便利です。また、口から食事ができなくなった場合は、鼻腔(びくう)や胃に穴を開け(胃瘻〈いろう〉造設)、そこからチューブで液体の栄養剤(経腸栄養剤)を入れる方法もあります。胃瘻造設は、鼻から管を入れる方法にくらべ本人の負担が比較的少なく、嚥下障害のある場合に家庭でもおこなわれている方法です。ただ、この方法は食べる楽しみはありませんので、医療スタッフから胃瘻の造設の相談を受けた場合には、家族も含め予後(病気の回復や社会復帰等)やQOLなどを考えて決めるようにします。
 誤嚥は肺炎のリスクだけでなく「窒息死」のリスクもあります。嚥下障害は摂食量が少なくなりがちになり、低栄養のリスクともなります。嚥下訓練や嚥下食の調製は医療機関で、専門の医療スタッフの指導のもとにおこなうことも重要です。

□口腔ケア
 口の中を清潔に保つことは、口腔(こうくう)内の細菌の増殖を抑えるという医療面での重要性だけでなく、食欲にも影響を与えます。また、嚥下障害のある場合では、口腔内に食べ物が残っていることに気づかず、食後、時間をおいてから、口の中に残っていた食べ物を飲み込んで誤嚥してしまい、窒息するという事故につながることがあります。
 また、嚥下障害のある人はうがいができないので、歯をみがくのがむずかしいことがあります。歯科衛生士さんに相談すると、障害のある場合の口腔衛生の方法について助言が受けられます。

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