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私が以前、肩関節の手術を受ける予定になった時のことです。整形外科の関節鏡手術は専門外ということもあり、同じ手術を受けた経験がある知人に相談してみたところ、「術後は痛くて眠れなかった」「痛み止めが全然効かなくて困った」というネガティブな感想が返ってきたのです。私は思わず不安になってしまいました。医師の私ですら、このような不安に駆られてしまうという事実は、重く受け止める必要があります。
体験や感覚は個人差があり、万人に共通するわけではない
実際、患者さんの中には、検査や治療に関して知人から具体的な体験談を聞き、「自分もそんな目に遭うに違いない」と思い、その検査や治療を拒否したいと言われるケースがよくあるからです。
◇体験談は慎重に扱う
私が日頃、多くの患者さんと接する中で思うのは、「検査や治療に対する体の反応は千差万別である」ということです。
例えば、大腸カメラの検査を受けた患者さんから「痛みが強かった」「前日の下剤のせいで夜が全く眠れなかった」という感想を聞くこともあれば、全く平気な方もいます。磁気共鳴画像装置(MRI)検査も、化学療法(抗がん剤治療)も、全身麻酔手術も同じです。
全ての医療行為に対して、患者さんの感じ方はケース・バイ・ケースなのです。
しかし、身の回りの少人数の意見を聞き、大きな影響を受けてしまう方は非常に多くいます。不安になるあまり、検査や治療の機会を逸してしまっては元も子もありません。
不安を感じた場合は、必ず医師にその旨を相談し、「どの程度の人がどんなつらさを感じるか」といった医師自らの経験に基づく客観的な情報を教えてもらったり、治療に関して過去のデータを参照に「どんな副作用がどのくらいの頻度で起こりうるか」といった医学的根拠のある情報を提供してもらったりする必要があると思います。
◇SNSやブログにも注意
昔は検査などの体験談は、現実に会える知人や親族などからしか聞けないものでした。しかし近年は、SNSや個人のブログで、容易に他人の体験談を知ることができる時代です。検査や治療に関して、かなり具体的な感想を発信している方がたくさんいるからです。
残念ながら、医師の立場から見ると「誤解を招きかねない」と不安になる情報は非常に多くあります。もちろん、こうした方々は「自分の体験を多くの方に役立ててほしい」という善意のもとに発信しているのでしょう。その気持ちを否定するつもりはもちろんありません。
何か未体験の出来事が控えている時、知人に相談したり、ネット上にある第三者の経験に触れたりすることで、心理的なストレスが軽くなるのも間違いないでしょう。だからこそ、「一例にすぎないはずの知人らの体験談に、人は大きな影響を受けるものなのだ」ということを知っておくのが大切です。その上で、自らの身を守るための検査や治療と向き合う必要があるのです。(医師・山本健人)
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