2025/02/05 05:00
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2025年2月、アケビの果皮の成分に乳がん細胞の増殖を抑える効果があることを発見した、という研究成果が報道されました。
成分は点滴などに活用できる可能性があるとされ、SNSなどでも話題になりました。
素晴らしい研究成果で、未来の医療の発展に寄与するかもしれないと期待に胸が膨らみます。
一方、患者さんにとっては、情報の捉え方に注意が必要な面もあります。
新たな研究成果に期待は膨らむが…
◇患者さんの期待と不安
医学の基礎研究の成果が、テレビや新聞で報道されることはしばしばあります。
がん患者さんの中には、こうしたニュースを見て希望を抱き、「自分も試してみたい」と考える人が多くいます。
治る可能性のあることなら何でもやりたい。患者さんがそう考えるのは当然のことです。
例えば、2020年に、液体のりの成分でがん治療の効果を高める手法を開発したという研究成果が発表された時もSNSでは大きな話題を呼びました。
とりわけ、身近な物質の効果に関する研究結果が報道されると、翌日に外来で患者さんから、
「昨日、〇〇が私の病気に効くというニュースを見たのですが、私も食べた方がいいでしょうか_」
と問われることはよくあります。
それだけではありません。
「本当に今受けている治療で十分なのだろうか」と患者さんが不安になることすらあるのです。
◇「第一歩」
実際には、こうした基礎研究の成果は、ほんの最初の「第一歩」です。実用化までには、さまざまな障壁を乗り越える必要があり、そこには莫大なコストと時間を要します。
一つの薬ができるまでに要する期間は10〜15年、候補となる物質のうち新薬として実用化されるのは約3万分の1とも言われます。
私自身も、がんの新薬に関する基礎研究に携わったことがあります。
新たな成果が得られるとプレスリリースが行われ、実際幾つかのメディアで報道されます。もちろん、報道される価値のある重要な成果ですが、一方、臨床医としては、過度な期待を抱かせるのは好ましくない、というジレンマがあるのです。
◇金もうけに利用
また、注意すべき点はもう一つあります。
こうした報道をきっかけに、がんの患者さんに「効果がある」と宣伝して科学的根拠が不十分な商品を売る人が現れることがある、という事実です。
例えば、「ある海藻に含まれる成分にがん細胞をやっつける効果がある」という報道がなされたら、そのニュースを根拠に、「海藻を使った健康食品を販売してお金もうけをしよう」と思い付く人がいるのです。
新しい治療薬に期待する患者さんは、こうした商品の効果を信じ、高額のお金を払ってしまいます。
医学研究の成果に関する報道に注意が必要、という事実には、こうした側面もあるのです。(了)
※参考 「くすりを創る」中外製薬ホームページ
山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、累計1200万PV超を記録。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)はシリーズ累計23万部。「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「患者の心得」(時事通信)ほか著書多数。
(2025/03/05 05:00)
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