教えて!けいゆう先生

転居の季節、医療機関を変える際に注意すべきこと 外科医・山本健人

 この時期、転勤や転居が理由で、通院中の医療機関を変更する人は多いのではないでしょうか?
実は何も準備せずに別の病院に行くと、適切な医療が受けられない可能性があるため、注意が必要です。

転居で医療機関を変えるときは紹介状を忘れずに

 ◇紹介状を依頼する

 かかりつけの医療機関を変更する場合は、必ず紹介状の作成を依頼しましょう。

 「紹介状」という字面だけを見ると、単なるお手紙のように思えますが、正確には「診療情報提供書」と呼びます。

 記載内容は多岐に渡ります。

 これまで患者さんがどんな症状で受診し、どんな治療を受け、どんな効果が得られたかを詳細に記載します。

 また、これまで受けた検査の結果を加えた上で、治療によって検査結果がどう変化したのか、きちんと分かるよう準備します。

 長らく患者さんを診てきた医師と、これから初めて患者さんを診る医師の間には、当然ながら情報量に格差が生じます。

 患者さんの治療に悪影響を与えないよう、この格差を可能な限り埋めるのが紹介状の役割なのです。
そういう意味では、紹介状は「申し送り資料」とも言えます。

 ◇新たな医療機関をどう選ぶ?

 では、転居先でかかる医療機関を、どのように選べばいいのでしょうか?

 この選択についても、これまでかかっていた医師に任せるのが良いでしょう。

 医師のことを最もよく知っているのは医師です。

 どの医師がどんな治療を得意としているか、どんな病院と連携しているか、などを踏まえて、それぞれの患者さんに最適な医師を選びます。

 通院の頻度が高いと見込まれるなら、自宅からのアクセスは大切な選択基準になるでしょうし、大きな専門施設と連携が必要なら、それにふさわしいクリニックを選ぶ必要があります。

 これらのさまざまな条件を吟味しながら、医師は紹介先を選んでいるのです。

 ◇自力で医師を変えると…?

 上記のようなプロセスを経ず、いわば「手ぶら」で別の医療機関に行くと、何が起きるでしょうか?
新たに診る医師は、患者さんの治療の経過を「患者さんが語る言葉」からしか知ることができません。
「自分の体のことなのだから自力で簡単に話せるだろう」と思う人が多いかもしれませんが、実際には、専門性の高い情報を専門知識のない人が正確に伝達するのはほとんど不可能です。

 結果的に、本来は必要なかったはずの検査を受けることになったり、既に効果が乏しいことが分かっている治療を再び受けることになったりと、診療は遠回りになってしまうのです。
以上のように、医療機関を変えるときは、その手続きをプロに任せ、医師をうまく利用するのがお勧めなのです。(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、累計1200万PV超を記録。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)はシリーズ累計23万部。「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「患者の心得」(時事通信)ほか著書多数。



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