足の悩み、一挙解決

歩き方は結果 自分にとってのベストを見つけよう(足のクリニック表参道 理学療法士・久保和也さん) 【PART2】第15回

 ◇「正しい歩き方」とは?

 「足が痛くなるのは、歩き方が悪いせいでしょうか」と患者さんからよく聞かれます。患者さんの訴えとして、歩き方をきれいにしたい、心配だからプロの目で見てほしいという声は非常に多くあります。「正しい歩き方」とは、どんな歩き方なのでしょうか。

「ファッションウイーク東京」で、ランウェーを歩くモデル。見事な「はさみ歩き」だが、脚の筋肉にかなりの力を入れていることが見て取れる=2019年3月18日、東京・渋谷区【EPA時事】

 例えばファッションショーのモデルは、1本の線の上を歩くような「はさみ歩き」をしています。これは一見、美しく、できればマスターしておきたいと思うかもしれませんが、人の本来の歩き方とは違ったイレギュラーな動きを意図的に作っているので、非効率で足には相当な負担がかかっています。ですから、私たちが普通に歩く場合は、まねをしない方がいいでしょう。

 美しい歩き方を教える講座なども人気が高いようです。ただ、こうした講座で教える歩き方は、あらかじめ理想とする型が決まっていて、すべての人にそれを当てはめようとします。足に何のトラブルもない人には良いかもしれませんが、関節や筋肉の硬さ、骨格構造など、人によっていろいろな得意不得意があるので、そこを無視して当てはめようとすると、無理が生じる可能性もあります。

 ◇「歩行機能改善外来」ってどんなところ?

 当院の歩行機能改善外来は、まず医師の診察を受けて、足の変形などのトラブルに対する治療を行った後、関節の動きの悪さや筋肉の弱さなど体の使い方を修正する必要がある場合に対応します。

 理学療法士によってアプローチの仕方はそれぞれですが、私の場合は患者さんが診察室に入ってくる時からの立ち居振る舞いをまず観察します。そのあと問診をしながら座っている姿勢、立ち上がる時の膝位置、床に足が着く位置などを細かくチェックします。足の状態を一通り診た後、次は片足立ちや爪立ち、足踏みなどをしてもらい、どこに問題があるか、だいたいの目星を付けます。

 立つ時に、どちらの足をどのように使うのか、立った状態で左右どちらかの足に重心が偏っていないか、爪先立ちをした時の安定感はどうか、足踏みをする時の脚の上げ方はどうか、爪先の向きはどうか、など、ほんのわずかな時間の中でも非常に多くの情報が得られます。次に実際に患者さんに廊下で5メートルほどの距離を自然に歩いて往復してもらい、前後から観察します。

 座っている姿勢、立ち上がる姿勢、歩いている姿勢を総合的に見て、問題が特定できたら、次は診察室のベッドに寝てもらって筋肉の状態をチェックします。

後ろに寄り掛かった状態で片足立ちをし、体のバランスをチェックする様子(足のクリニック表参道提供)

 ◇なぜ、そう歩くのか。原因を考える

 今現在の歩き方は、その人の現状の中でベストな歩き方、つまりなるべくしてなっている結果なのです。ですから、歩き方を直す前に、なぜそのようになっているのか、原因を探っていくことが不可欠です。人の体の動きには、代償(だいしょう)行動というものがあって、どこかに不具合があっても、何とかしてそれを回避して目的を達成しようとします。

 例えば、姿勢が悪い人に対して、「背筋を伸ばしてください」と言ったとします。背中が硬くて伸ばせないのに、上体を起こして姿勢を正そうとすると、膝が曲がり、首が曲がる。その結果、かえって首を痛めることがあります。硬い部分を補おうとして代償動作をしてしまうからです。

 無意識に歩いてみて、膝が外を向く、爪先が開くという人は、なぜそうなるのか理由を探った方がいいでしょう。膝が外を向くのは足首が硬いんじゃないか、筋力が弱いんじゃないか、原因を探して改善していけば自然と理想の位置に戻りやすくなってきます。歩き方を意図的にコントロールしようとするのは本末転倒。どうすれば、より足に負担がかからない歩き方ができるのかを見極めて、アドバイスするのが理学療法士の仕事です。

東京・渋谷のスクランブル交差点を渡る人々。それぞれ歩き方に特徴があることが分かる=2020年5月26日【時事通信社】

 「歩き方を見ただけで日本人だと分かる」などとよく言われますが、姿勢が悪く、歩幅が小さい歩き方をする原因の多くは、お尻の筋肉(大殿筋・中殿筋)が弱いことです。お尻の筋肉の力が弱いと足を後ろに引くことができず、体にきちんと推進力を与えることができません。また、後ろに引けなければ反対側の足を大きく前に出して進むこともできないため、結果的に歩幅も小さくなります。大殿筋・中殿筋トレーニング(第13回参照)をすると、股関節をきちんと使って足がゆっくり出せるようになり、歩き方が美しくなります。

 ちなみに、専門の視点から見た正常な歩き方は、足先は少しだけ外側に開いて、足と足の間隔は開いたままの状態で足を前に出し、かかとから着地して、親指の付け根に重心移動して踏み返します。この原則から多少ずれていても、足への負担が許容範囲内であれば問題ありません。膝が痛い人は痛くないように、タコができるならできないような歩き方ができるよう、その人なりの健康な歩き方を一緒に考えていきます。

 次回は歩き方の問題について具体的なケースをご紹介します。(文・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)

 久保 和也(くぼ かずや) 
 2009年国際医療福祉大学 保健医療学部 理学療法学科卒業、春日部中央総合病院フットケアチームに所属。足病患者のリハビリテーションを7年間経験後、15年に足のクリニック表参道の事務長就任。機能改善外来を設立し、スポーツ障害含む足部疾患全般のリハビリテーションを担当。日本フットケア足病医学会認定士。日本フットケア足病医学会、日本足の外科学会に所属。

   【足のクリニック表参道 桑原靖院長プロフィル】  





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