2024/08/30 05:00
婚活、不妊治療の末、養子をわが子に
~産婦人科医が実践「産まない先の選択」~
2024年4月から施行される医師の働き方改革で、病院勤務のすべての医師の長時間労働が規制される。女性医師の割合が増加傾向にある中、医療現場では女性医師の育児休暇や時短勤務により、男性医師の負担が増大しているという声もある。女性医師に男性と同等の指導の機会を与えることを約束した「函館宣言」の立役者である野村幸世・東京大学大学院准教授、大越香江・総合病院日本バプテスト病院外科副部長、河野恵美子・大阪医科薬科大学助教と、その場に立ち会った社会学者の上野千鶴子氏、日本ロレアルの楠田倫子ヴァイスプレジデントの5人に、仕事と家庭の両立問題や働き方の見直しなどについて意見を聞いた。
上野さん
◇最初から男女格差
―医療業界以外の職場でも役職における男女格差が根強く残っているのでしょうか。
上野 今回の「函館宣言」を拝見して、医学界に限らず、どの業界でも同じような問題を抱えていると痛感しました。昨年、野村先生の依頼で東大の医学生を対象に講義を行ったのですが、その中で佐藤直子さんの著書「女性公務員のリアル:なぜ彼女たちは『昇進』できないのか」(学陽書房)を紹介しました。公務員や教員は一生働ける差別のない安定した職場だと思って選ぶ女性が多いのですが、入ってみたら全然違っていたというのです。
地方公務員として25年間勤務してきた著者が、全国の役所を徹底的に調べてみたところ、部長や局長クラスの役職に就いている女性は10%程度*1。男性は若い時からジェネラリストとして全体を見渡せるポジションに就いていることが多く、多くの女性はその周辺部門のスペシャリストとして働いています。「男向け」「女向け」の配置と異動によって、ポストに差がついてきます。昨今、「女性活躍」の掛け声の下に、経験もスキルもない女性職員にいきなり役職を与え、うまくいかないと失敗事例として印象付けるという操作が延々と続けられてきたというのです。
また、社会学者の大槻奈巳さんは「職務格差:女性の活躍推進を阻む要因は何か」(勁草書房)で、総合職として入社したスペックが同じ新卒のシステムエンジニア(SE)男女の10年後を比較し、男性SEは主に新規プロジェクトを担当し、女性SEは保守点検業務に固定される傾向があることを明らかにしました。その結果、10年の間に、男女間にスキルやポストの差が生まれると結論付けています。ポジションが人を育てるのは当たり前のことです。
楠田さん
◇根強い年功序列、海外企業は柔軟な人事
楠田 私は海外と日本の企業を比較した時に加点主義と減点主義による違いを感じたことがあります。日本の企業の多くは年功序列が残っていて、何年間か勤めると主任になり、係長になり、課長になり、ある程度のところまでは上がっていけます。ただ、そのためには経験年数やスキルといった一定の要件をパスする必要があります。パスできない人は減点され、上には行けません。最初から「かくあるべき枠」があって、経験やスキルがないと減点されていく。減点されずにはまればいいけれど、枠からはみ出た人や枠に入れない人は居場所がなくなってしまう。これは日本の教育にも通ずるところがあります。
弊社の規範は極めて自由です。悪く言うとカオスであり、外からは分かりづらいかもしれません。相対評価か絶対評価かといえば絶対評価という言い方もできます。性別は関係なく、まず人を見て、その人の持っている能力と会社の希望を合わせ、できるだけ本人が望む形で力を発揮できるようポジショニングします。型にはめず、人によって職務の範囲を広げることも融通むげに行っています。その結果として、社員が定着しやすい職場となっています。女性の場合、ライフステージによっては、仕事との向き合い方を変えざるを得ない時期があります。ライフイベントをうまく仕事に反映させて、仕事を長く続けていけるような環境整備に重点を置いています。
河野医師
河野 そのような柔軟なシステムが社員の意欲を高めて、パフォーマンスが上がるのですね。典型的な日本の大企業では、ある程度の年齢になると、上のポストが空かないので上がれない人は出向になるという流れがよく見られます。会社員である夫にも突然異動の辞令が下りたので、家事・育児も1人で背負うことになり大パニックになりました。家族の都合はまったく考慮されません。
楠田 弊社では異動については必ず本人の意思を尊重します。本人が行きたいかが重要なので、それを確認し、たとえ断ったとしても問題ありません。家庭の事情というきちんとした理由がある上で、どういう働き方をすればパフォーマンスが上がるかを話し合います。家族への負い目がある中で無理やり仕事に従事させることは本人の意欲をそぎ、お互いが不幸になるだけだからです。
(2024/01/02 05:00)
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