2024/12/12 05:00
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超高齢化に伴い、泌尿器疾患の患者数が急増している。頻尿、尿失禁をはじめとする排尿障害の40歳以上の有病率は82.5%*1と20年前と比較しても大幅に上昇した。かつては泌尿器疾患の大半が男性の前立腺肥大症に起因する症状だったが、近年、女性の尿失禁の新しい術式の開発や過活動膀胱の新薬の導入が進み、女性泌尿器領域の治療が進歩し注目されるようになった。多くの人が症状を自覚しているにもかかわらず、病院を受診しているのはわずか4.9%と泌尿器科受診のハードルは依然と高いままだ。
泌尿器科領域における女性医師のニーズが高まる中で、女性の泌尿器科医が増えている。女性の泌尿器科医が珍しかった時代に専門医となり、女性医師団体の会長として活動の場を広げる前田佳子医師に泌尿器科医を目指した理由や女性泌尿器科医の役割について聞いた。
前田桂子医師
◇腎移植の素晴らしさに引かれ
医学部5年生(東京女子医科大学)の時に最初に臨床実習を行ったのが腎センターで、そこで初めて受け持ったのが移植した直後の子どもでした。病気で十分に成長できず小さく弱々しい身体で透析を受けていた子が、移植してからはおしっこが出るようになり、どんどん元気になっていきました。患者さんの回復の早さを目の当たりにしたことで移植技術の素晴らしさを実感し、腎移植の道に進みたいと思うようになりました。
腎移植を行っている診療科は移植外科と泌尿器科がありましたが、当時は移植外科に入局して6年間で両方の科を勉強し、最終的に移植外科か泌尿器科を選ぶことになっていました。当時の泌尿器科は男性ばかりで、自分の卒業大学でさえも私の入局希望に対して、「やめた方がいい」とまったく相手にされませんでした。それでも諦めることなく何度も頼み込んでいたら、「そんなにやりたいならやってみて、嫌になったら結婚して辞めればいい」とようやくお許しが出たのです。今なら問題とするところですが、当時の私は「やっと入れてもらえた」という気持ちが先にきて大喜びで入局しました。
◇基礎研究の勉強のために渡米
腎移植を学ぶために泌尿器科に入局したのですが、日本では腎移植のほとんどが生体腎移植であり、実際の現場では腎臓を提供する家族の葛藤などに直面することが多く、移植医療の限界を感じるようになりました。
一方で、泌尿器科の研修中に指導を受けた先生の多くが悪性腫瘍を専門にしており、泌尿器科では珍しい20代の肉腫の患者を受け持つ機会を与えられました。そこで悪性疾患の治療の奥深さを知り、悪性腫瘍を専門とする決意が固まっていきました。
泌尿器がんの臨床医として働くうちに、日本では本格的に基礎研究を学ぶ機会がなかったことと海外で生活してみたいという気持ちが強くなり、1996年から3年間、米国に留学しました。当時、所属していた泌尿器科学教室ではクリーブランド(米国)にしか留学先がなかったのですが、知り合いの腎臓内科医が留学していたニューヨークにあるアルバートアインシュタイン医科大学の教室を紹介してもらいました。私が所属した教室では個人にプロジェクトを与えられていました。その教室では、扱ったことのない技術を習得するために3カ月間、他大学の教室に派遣された後に自分のプロジェクトに取り組みました。日本ほどではありませんが、当時は米国でも泌尿器科は女性医師が少なく、泌尿器が専門だというだけで驚かれました。
◇女性泌尿器領域の治療にやりがい
帰国後は東京女子医大の本院に戻り、主として悪性腫瘍の診療を行っていたのですが、20年ぐらい前から女性泌尿器領域のニーズが高まったことから徐々にそのウエートが大きくなり、2024年4月に現在の職場である「足立医療センター 骨盤底機能再建診療部」に移って女性泌尿器を中心とした診療を行っています。
骨盤底機能再建診療部では、女性の排尿障害や性器脱、尿失禁といった、骨盤底機能に関わる疾患は全て診察し治療を行っています。排尿機能障害、膀胱痛、骨盤内臓器の異常に対して精査し加療します。特にニーズが高いのは骨盤臓器脱と尿失禁です。骨盤臓器脱は高齢の患者さんが多く、施設によっては「年のせいだから仕方がない」と言われてしまうこともありますが、当院では年齢に関係なく希望と適応があれば積極的にメッシュを用いた手術治療を行います。また、尿失禁は更年期以降から高齢まで幅広い年代の方が悩んでいます。アクティブに活動したい方には手術を勧めています。ほとんどの診察・検査は女性スタッフが対応していますので、女性の患者さんも抵抗感も低いと思います。良性疾患ではありますが、排尿トラブルは生活の質に大きく関わりますので、治療によって患者さんの生活が改善されると大変感謝され、やりがいを感じています。
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