女性医師のキャリア

女性医師、いまだに「仕事と家庭の両立」困難
~男性含め働き方の見直しを~ 【「函館宣言」座談会・下】

活発に議論する上野さん(左)と河野医師

活発に議論する上野さん(左)と河野医師

 ◇負担減へ業務スリム化を

 河野 私も以前、「育児支援制度が整えば外科職務と育児が両立可能か」というテーマで論文を書いたことがあります。その時の結論は、「支援によって難易度は下がるが、両立は困難」でした。どんなに育児支援の制度を整備しても仕事の継続が可能にはなりません。日本の外科医は手術だけをしていればいいというわけにはいかず、術後管理、病状説明、標本整理、カルテ記載、退院サマリー、ターミナルケア等々、多岐にわたる幅広い業務をすべて行っています。重要なのは外科医の仕事のスリム化です。タスクシフトやチーム制、医療施設を集約化するなど、医療者の業務内容や労働環境を全体的に見直さない限り、いつまでも外科医の負担は減りません。

 大越 女性医師の多くは配偶者が医師であることから、女性医師のための支援だけではなく、男性医師への支援も必須だと感じています。子どもがいる女性医師に手厚い配慮をしていても、男性医師が育児をすることには全く理解のない病院もあります。男性は残業をするのが当たり前で、子どもの発熱のために早く帰宅しようとして上司に嫌がらせを受けたという話もあります。一緒に働く医師の意識が変わらない限り、どんなに法整備がなされても改善につながりません。

 河野 外科医不足はますます深刻になってきています。都市部では狭い範囲に病院が密集している所もあるので、近隣の複数の病院の外科機能を一つに集約することを検討してもよいかもしれません。施設を減らして人を集めれば交代制が可能となり、当直の回数が減らせますので人員不足も解消できます。ハイボリュームセンターとして充実した研修もできますので、若い医師にとっても魅力的な環境になるのではないでしょうか。

改革の必要性を語る(左から)大越医師、野村医師、楠田さん

改革の必要性を語る(左から)大越医師、野村医師、楠田さん

 ◇求められる意識改革

 上野 2024年4月から働き方改革の最後の聖域と言われる「医師の働き方改革」が始まります。これにより、医師の負担は軽減すると思いますか。

 野村 外科医不足が解消されない中で、業務量がそのままで長時間労働だけを禁止しても、患者さんがいなくなるわけではありませんから、サービス残業をする医師や、バイトができなくなることによる収入減少で経済的に困る医師が出てくるのではないでしょうか。

 河野 病院勤務の外科医不足がどれだけ深刻なのかを国民がご存じでないことも問題です。医師と面談するのに、仕事が終わった後の19時以降を希望する患者さんが多くいます。これからは時間内の来院にご理解をいただく必要があると思います。

 上野 女性の社会進出が進み、最近では医師以外でも専門職の同業者同士の結婚が増えてきました。若い世代では、男性が専業主婦の妻を選んで家事や育児を任せるのではなく、スペックの高い女性を選ぶような流れになってきています。稼得力(かとくりょく)が女性の魅力に入ってきたのです。そうなると、育児休暇のような支援だけではなく、女性医師のキャリアをいかに中断させないようにするかといった施策が必要ですね。

意見を交わす5氏

意見を交わす5氏

 大越 女性の支援だけではなく、医療者全体の状況が改善されない限り、女性医師の問題は解決しないと思います。法や就業規則の規定は既に整備されていますので、実現するためには医師の意識改革が必要です。ただ、仕事よりも家庭を重視し、キャリアアップを求めずに非常勤を希望する女性医師がいることも否定できません。最先端の医療現場で働くことに価値を見いだすかどうか、ワークとライフのバランスをどうしたいかは個人によるところが大きいのです。

 河野 大越先生のおっしゃる通りだと思います。今までは女性に限定した支援策が中心でしたが、これからは男性医師も含めた全ての医師の勤務条件の緩和や改善を議論すべきです。女性活躍の一丁目一番地は働き方改革です。幸い、医師の働き方改革が目前に迫り、徐々にそういった雰囲気が熟成されてきました。医師の労働環境の改善は医師の確保と適正配置への近道であり、外科医不足の解消にもつながります。最終的に患者さんに対して「医療の質の担保」といった大きなメリットをもたらすのではないでしょうか。(了)

聞き手・文:稲垣麻里子、企画:河野恵美子(大阪医科薬科大学医師)

【注】
*1) 都道府県の本庁部局長次長相当職の職員の女性比率8.1%、市区町村の本庁部局長次長相当職の職員の女性比率 11.5%(2022年内閣府調査)

*2) 「子育て女性医師のキャリア形成とジェンダー構造に関する研究」内藤眞弓(2020)

*3) 「京都大学医学部附属病院の女性医師支援のための調査」(2009年)

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