女性医師のキャリア

女性医師、いまだに「仕事と家庭の両立」困難
~男性含め働き方の見直しを~ 【「函館宣言」座談会・下】

 ◇男性配偶者のキャリア優先

 上野 国内で最近発表された女性医師のキャリアにフォーカスした研究で興味深い論文*2がありました。女性医師が男性医師と結婚する比率は7割以上と非常に高いのです。一方、男性医師が女性医師と結婚する比率は16%と低い。さらに、医師同士のカップルだと女性医師は夫のキャリアを優先する比率が高い。夫が医師ではない場合や自分よりも所得が低い場合でも女性医師は夫のキャリアを優先させる傾向にあるというのです。それが女性医師のキャリアの継続を難しくしています。

野村医師

野村医師

 野村 私の夫は外科医で、若い医師には性別で区別することなく手術の経験をさせ、一生懸命に教えています。けれども一般病院の外科部長だった時、女性医師は夫の転勤が決まると研修の途中でも突然辞めてしまうという経験を何度もしたそうです。研修を途中で中断すると専門医の資格が取れなくなるので、専門医を取得するまでの数カ月間だけでも何とか残れないのかと説得しても、「夫と一緒に引っ越すので」とあっさりと去ってしまうということでした。

 河野 夫婦が両方ともフルタイムの医師の場合、1人では子どもの世話をするのは難しく、夫が転勤になるとやむを得ず辞職するか、常勤職を続けたくても非常勤を選ぶケースが多いです。非常勤になると執刀機会を得るのが難しく、外科医としてのキャリアアップの機会を失います。非常勤の期間が長ければ長いほど、復帰やスキルアップが難しくなり、キャリアを断念せざるを得ないのです。

 楠田 ロレアルはフランス本社にエシックス(倫理)担当の役員がいて、世界各国に1人ずつ「エシックスコレスポンデント」を置くことになっています。いわゆる社内の倫理を守るための風紀委員です。日本では私が拝命し、社員からさまざまな相談を受けています。以前、匿名で部下に関する相談メールが届きました。英語なので外国人の上司だと思われますが、「非常に有能な部下がいるが、彼女は夫から『子どものために仕事を辞めて家庭に入れ』と言われ、強いプレッシャーを受けている。このままでは彼女が会社を辞めてしまう。夫の行動はアンエシカル(unethical)なので、この状況を上司として看過できない。会社が関与して何とか止められないか」という内容でした。海外では夫が妻に対して仕事を辞めてほしいと迫るのはアンエシカル、つまり「倫理的ではない」と捉えられることもあるようです。夫婦間の問題なので、さすがに会社は関与できませんでしたが、なかなか厳しい指摘でした。

 河野 日本人には「妻が夫を支えるのは当たり前」という考えが今もなお根強くあります。社会の人権意識が低いのかもしれませんね。函館宣言も女性を男性よりも優遇してほしいと頼んでいるわけではなく、同じ医師として人として平等に機会を与えてほしいと訴えているだけですが、ここに至るまでには大変な反発がありました。

大越医師

大越医師

 ◇出産・育児で離職や非常勤に

 大越 私は子どもが小さい頃、実家の両親やベビーシッターさんにかなりお世話になりました。けれども、外部のサポートを利用しても、病院で常勤として働きながら子育てや家庭を両立することは簡単ではなく、家事や育児を女性が主として担うことが前提の社会自体に疑問を抱くようになりました。

 厚生労働省の資料などによると、女性医師も一般女性と同じように30~34歳に就業率が下がる、いわゆるM字カーブを形成します。女性医師は出産・子育てを理由に卒後10年以内に離職、または非常勤医に転換する傾向にあります。さらに、男性医師よりも女性医師の方が病院勤務から診療所勤務へのシフトが急速に進行します。つまり、子どもを持つ女性医師が病院で常勤医としてキャリアを継続することは極めて困難であることを示していると思いました。

 そこで私は、2009年に当時勤務していた京都大学病院の女性医師の労働環境や必要な支援について調査しました。*3 調査では、特に役立った育児のサポートとして「自分の母」が一番多く、続いて「配偶者」「配偶者の母」など家族のサポートが大きな比率を占めています。病院勤務の長時間かつ不規則な状況での子育て支援は、公的な施設だけでは十分と言えず、家族の助けが不可欠です。配偶者はもちろん、親といった特別な救いの手がない限り、育児との両立は成立しないという結果でした。さらに、子育て中は家庭と仕事の両立に悩み、仕事を辞めることを考えたことがある女性医師は半数以上に上りました。希望を抱いて医師となり、医師という仕事を大切にしたいと考えていても、女性医師は配偶者や家庭を優先せざるを得ない状況にあるのです。


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