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仕事・介護両立へ企業の理解が不可欠
~認知症とビジネスケアラーでシンポ~

 仕事をしながら家族らの介護をする「ビジネスケアラー」に関する企業の理解を深めようと5月中旬、都内でシンポジウムが開催された。要介護認定を受ける要因としては認知症が最も多く、その世話は大きな負担となる。仕事と介護の両立に向け、出席者は「介護していることを職場で言いづらい。介護を自分ごととして捉えて」と訴えた。

 ◇経済損失9兆円か

 国内の65歳以上の高齢者のうち、認知症と軽度認知障害(MCI)の人数は2022年時点で合計1000万人を超え(認知症443万人、MCI559万人)、高齢者全体の約3.6人に1人が認知症かその予備軍と推計されている。人数は今後も増加し、50年には合わせて1200万人を超える見込みだ。

 経済産業省の試算では、ビジネスケアラーは20年時点で262万人。30年には318万人に増えるとされ、経済損失は約9兆円に上る。

 日本総合研究所が家族の介護をしている会社員を対象に行った調査では、同居している認知症の家族を介護している人の約31%が1日当たりの介護時間を「ほとんど終日」と回答。仕事に対して影響があると答えた人は、認知症がある家族の介護で50~77%、ない場合は23~51%だった。企業に求める制度としては「家族介護を支援する制度の周知の機会」「正しく認知症を学ぶ機会」「家族の認知症を早期発見・診断するための支援」が多かった。

認知症の人と家族の会代表理事の鎌田松代さん

 ◇「職場に迷惑」と退職した人も

 「認知症の人と家族の会」代表理事の鎌田松代さんは「大企業ほど制度は整っているが、使いづらい」と話す。同会の調査では、認知症の家族から職場に電話がかかってきたり、急な体調の変化で早退せざるを得なくなったりしたせいで、正社員から非常勤に雇用形態を変更する事例もあった。鎌田さんは「介護していることを、職場にカミングアウトしやすいような職場環境があるとよい。介護は先が見えないところが不安の要因」と指摘する。

認知症の人と家族の会の下坂厚さん

 同会の下坂厚さんは、鮮魚店で働いていた19年に46歳で若年性アルツハイマー型認知症を発症。それを機に、鮮魚店を退社した経験を持つ。下坂さんは「当時は認知症の知識が全くなく、認知症になったらもう何もできなくなる、職場に迷惑をかけてしまうというイメージを持っていたので、すぐ退職してしまった」と当時を振り返る。その上で「認知症になってもできることはたくさんあるので、配置換えなどで働き続けることもできる」と強調する。

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