アルツハイマー型認知症〔あるつはいまーがたにんちしょう〕 家庭の医学

 脳の中の大脳皮質にある神経細胞が死滅するために起こる病気です。自然な老化でもそのような過程はあるのですが、この場合は病的な過程で進行性に神経細胞がおかされるのが特徴です。その原因として、ベータアミロイドという物質が異常にふえて細胞が変性することなどが考えられています。また神経細胞がおかされてアセチルコリンという化学物質のはたらきが低下することで記憶の機能が低下すると考えられています。

[症状]
 病気はゆっくりと始まり、徐々に進行します。記憶の障害のみのもの、精神症状が合併するものなどかたちはさまざまです。検査では、頭部CT検査やMRI(磁気共鳴画像法)で脳の萎縮(いしゅく)がみられ、局所脳血流検査で血流低下が出ます。
 また知的な機能の低下は、改定版長谷川式簡易知能評価スケールやミニメンタルステート検査(MMSE:Mini Mental State Examination)などのテストで調べることができます。改定版長谷川式簡易知能評価スケールは日時、場所、計算、記憶などの正確性を調べる検査です。ミニメンタルステート検査は長谷川式の内容に、文章を復唱したり、書いたり、図形を描いたりといった動作を含む内容が加わった検査です。

[治療]
 現在、神経細胞の死滅をストップできるような治療法はありません。しかし、早期診断と治療や介護の工夫によって病状の進行をゆるやかにし、本人や家族のストレスを減らしていくことができます。治療に乗せるには認知症疾患医療センター、地域包括支援センター、認知症初期集中支援チームなどを活用するとよいでしょう。大切なことは感情をなるべく安定した状態に保つことで、それには異常な言動を責めたりせず、本人の立場に立って対応することです。また、家族が適度の休息をとることも必要で、介護保険でデイサービス、ショートステイなど社会資源をうまく利用するとよいでしょう。
 薬物療法では抗認知症薬である塩酸ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンが用いられます。多くは軽度の認知症がみられる初期の段階で服用すると、本格的な症状の発現を遅らせることができるものですが、中等度から重度のケースで使用されるものもあります。精神症状や行動障害が強い場合には抗うつ薬や抗精神病薬などが用いられることもあります。

【参照】脳・脊髄・末梢神経・筋の病気:アルツハイマー病

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
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