東京都墨田区の病院が来年度の設置に向けて準備を進めていることが明らかになった「赤ちゃんポスト」。乳幼児を育てられない親による遺棄や殺害を防ごうと、国内では熊本市の慈恵病院が唯一運用しており、新たな受け皿となるか注目される。
 2007年5月に「こうのとりのゆりかご」と名付けた赤ちゃんポストを設置した慈恵病院は、22年度までに計170人の乳幼児を受け入れた。市の専門部会の検証結果によると、このうち周囲に相談できないなどの理由で自宅や車中で出産したケースは52.9%に上る。蓮田健院長は「孤立した女性の選択肢として必要だ」と意義を語る。
 一方、検証委員を10年以上務めた関西大の山縣文治教授(子ども家庭福祉)は孤立出産の危険性を指摘し、「ポストは最後の選択肢と位置付け、積極的に設置するべきではない」と訴える。妊婦が病院だけに身元を明かして出産する内密出産であれば母子の安全が確保できるとして、「課題を整理して国が制度化を進めるべきだ」と話す。
 内密出産は慈恵病院が19年12月、国内で初めて導入して以降、これまでに14人が利用。国は22年9月に「推奨するものではない」と明記した上で自治体や病院向けのガイドラインを公表した。ただ、母親の氏名や住所など身元情報の保管や開示方法は、医療機関などに判断が委ねられている。
 慈恵病院と熊本市は、子どもの出自を知る権利についても検討を進めており、来年12月をめどに報告書をまとめる方針だ。 (C)時事通信社