治療・予防

限界迫る重症患者の治療
新型コロナ、専門家から切実な声

 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、東京都や大阪府など10都府県で緊急事態宣言が延長された。重症患者は減らず、受け入れる医療機関に大きな負担が生じている。専門医は「重症になればなるほど、回復までの時間が必要で、それだけ病床の回転は悪くなるし、必要な専門スタッフの延べ人数も増える」と訴えている。

集中治療室では多くのスタッフが関わる(昭和大学病院提供)

集中治療室では多くのスタッフが関わる(昭和大学病院提供)

 ◇病床数ぎりぎりの受け入れ無理

 昭和大学病院(東京都品川区)は、重症コロナ患者用の病床35を備える。しかし、相良博典院長(呼吸器内科教授)は「実際には23~25人で、収容能力の上限に達する」と話す。

 「理由の一つは、中等症程度で入院している患者がいつ増悪して重症化するか分からないことだ。そのための受け皿を用意しておく必要がある。もう一つの理由は、重症化して人工心肺(ECMO、エクモ)や人工呼吸器を装着する際に専門の医師や看護師、機械技師が一定数必要なことだ。回復するまでの管理期にもある程度の専門スタッフが24時間体制で必要になり、そのやりくりを考えると、病床数目いっぱいの患者を受け入れるのは難しい」

 医療現場の現状が伝わりにくいとされる問題の背景には、新型コロナによる肺炎の症状の評価が一般の肺炎と異なっている点もある。新型コロナ感染症では、肺炎によって自力で呼吸ができなくなり人工呼吸器の装着が必要になる段階までを「中等症以上」、人工呼吸器またはエクモを装着して心臓などの臓器の機能まで代替する必要が生じた場合「重症」と分類されている。ただし、一般的には肺炎が進行して人工呼吸器装着、さらにエクモを装着すれば集中治療の対象となる。

 ◇「長期戦」回転率下げる

 重症肺炎の治療は、炎症を引き起こすウイルスや細菌を抗ウイルス薬や抗菌薬でたたきながら、炎症を抑えるステロイド剤や血液が血管内で固まってしまう血栓形成を防ぐ薬などを組み合わせて投与する。同時に、人工呼吸器やエクモで肺などの役割を肩代わりさせて臓器の負担を軽減して回復させていくのが基本だ。

救急車で搬送されてきたコロナが疑われる患者(昭和大学病院提供)

救急車で搬送されてきたコロナが疑われる患者(昭和大学病院提供)

 この治療には、「長期戦」の覚悟が必要だ。「人工呼吸器やエクモが必要な状態なら、回復までに数週間はかかる。治療機器を外せても、すぐに退院はできず、一定期間、療養しなければならない。その分、病床の回転率は悪くなる」と、相良院長は言う。

 この病院では、6週間にわたりエクモを装着した治療を受け、ようやく回復した患者もいたという。ただ、リハビリテーションまで加えれば、約3カ月の入院になった。このように、エクモから解放されても、人工呼吸器をそのまま装着し続けなければならない患者も少なくない。その分、受け入れる医療機関とスタッフの負担は大きくなる。

 ◇医療体制の再構築を

 現状では、医療機関が保有するエクモや人工呼吸器の数が注目されがちだ。相良院長は「高度医療機器である人工呼吸器やエクモは、操作に熟達したスタッフがいないと十分に機能しない。特にエクモはそうで、大学病院などの高度医療機関の間でも技量に差がある」とした上で、「熟達した高度医療機関にエクモを必要とした患者を集約し、代わりに人工呼吸器の患者は別の高度医療機関に移す。症状が悪化すればエクモ専門の機関に搬送し、回復すれば、また戻すという体制も考えるべきだろう」と提案する。

 この役割分担を実施するには、現在の保健所による入院調整とは異なり、「病状の急変に対応できるように、24時間体制で分単位の対応」(相良院長)が求められる。一部の都市部に限られるが、救急搬送の現場で脳卒中や心筋梗塞の救急患者の受け入れを対象に運営されている。これがコロナ対応でも実現できれば、先駆的な例になると期待できる。(了)

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