Dr.純子のメディカルサロン

深刻化するいじめ、無償で実態調査―阿部泰尚さん
~子どもに寄り添い信頼関係結ぶ~

 いじめが引き金になった子どもや青少年の自殺は後を絶ちません。心のSOSを受け止める受け皿が整っていないことや受け皿になる場が機能していないことが多いのが現状です。いじめを受けた子どもたちの多くは周りに相談するのをためらったりして隠していることも多いと思われます。そうしたいじめの現状を打開するべく、無償でいじめの相談に乗るユニークな活動を続けている人がいます。いじめ防止の活動が漫画化されて多くの反響を呼んでいます。先ごろその活動で公益財団法人社会貢献支援財団から奨励賞を受けたNPO法人ユース・ガーディアン代表の阿部泰尚さんにお話を伺いました。

(聞き手・文 海原純子)

阿部泰尚さんの活動を描いた漫画「いじめ探偵」

阿部泰尚さんの活動を描いた漫画「いじめ探偵」

 ◇「万引きの強要」を録音

 海原 阿部さん、よろしくお願いいたします。阿部さんは、もともと探偵業をなさっていらしたと伺いました。どのようなきっかけでいじめ防止に取り組もうと思われたのでしょうか?

 阿部 探偵業を始めて1年たち、初めていじめの相談を受け、調査の依頼をチャレンジという意味で受けました。そもそも学校に入ることはできませんから、被害を受けている子に、録音機を持ってもらい会話を録音し、学校外で行われていた「万引きを強要」する様子などを確認しました。

 この初めての調査を通じて、こんなにも「いじめ」がひどい状況になっているということを知り、本格的に着手するようになりました。

 海原 万引きを強制するいじめというのは本当にひどいですね。阿部さんの活動が漫画になっている「いじめ探偵」を読んで本当に驚きました。相談はメールや電話でという形が多いそうですが、実際にいじめを受けている子どもはどうやってこの相談窓口を知ることができるのでしょうか?

 阿部 当初は有償だった時期もあり、マーケティングをしっかりして、広告なども出していました。完全な無償になってから、私が書いている記事や取材を受けたもの、テレビなどで紹介されている映像の他、本、漫画を読んで電話やメールをしてきていると聞いています。

2019~21年に「ユース・ガーディアン」に相談があったいじめ被害者の内訳(阿部泰尚さん提供の資料より)

2019~21年に「ユース・ガーディアン」に相談があったいじめ被害者の内訳(阿部泰尚さん提供の資料より)

 ◇進む低年齢化

 海原 被害を受ける子どもの年齢はどんなでしょうか?

 阿部 低年齢化は深刻になってきており、2019~21年の3年間に相談を受けた延べ1380人のうち小学校低学年が17%、高学年が29%となっており、中学生29%、高校生が23%となっています。

 海原 低年齢化していますね。相談は被害を受けている子ども以外に、親や友達からなどもありますか?

 阿部 相談のほとんどは保護者からになります。直接子どもが相談してくる時は、かなり厳しい状態であることがほとんどであり、自分で何とかしようとしていることも多くあります。ただし、深刻ないじめの被害状態から自分で回復するのは至難の業であり、できることは極めて少ないことや対応を継続させることが難しいということもあります。

 海原 被害の内容ですが、これは緊急という切迫したものはどのくらいありますでしょうか?

 阿部 相談は、だいたい1日で平均すると2、3件といったところですが、1カ月のうち、深刻で、緊急性が高いと判断できるものは、2、3件といったところです。

 ◇相談受ける側にも大きなストレス

 海原 ご活動をモデルにした漫画を読ませていただきましたが、具体的ないじめの内容を見て、ここまでひどいのかと衝撃を受けました。こうしたいじめの具体的な内容は加害者側のプライバシーということで明らかにされないことがほとんどですから、一般の人が事実に到達する機会はほとんどないと思います。身体的暴力や無視などの他、女子高校生の場合などは、非常に陰湿な事例もありますね。

2019~21年に「ユース・ガーディアン」に寄せられた相談内容(阿部泰尚さん提供の資料より)

2019~21年に「ユース・ガーディアン」に寄せられた相談内容(阿部泰尚さん提供の資料より)

 阿部 はい。私が出動して調査をするような事案は、いじめの中ではかなりひどいものです。本当に子どもが自らの考えでここまでやるのかと思うような犯罪行為そのものも多数あります。

 いじめの実態を知る上では、実際に起きていることを脚色なく、表現することが一番大事だと思いますので、ありのままの状態を表現してもらいました。

 いじめの場合、被害者が自死していることもありますが、被害者の人権はじゅうりんされたままで、死者に対してはその尊厳すら守られないということが多々あります。被害者を守るという要素が現状ではあまりに足りないという現場に多く直面しています。

 海原 いじめを受けた子どもの支援でご自分がストレスになることはないでしょうか?私も人の悩みや理不尽に遭った人の気持ちを聴くことが多いので結構疲れます。

 阿部 いじめの対応は全て無償で行っていますが、費用面が足りない場合は私の自腹というのが、痛いと思うことがありますが。

 楽しい話を聴いていれば、楽しい心持ちになると同じで、私の場合はひどいいじめの話やそれに対応しない教育行政や隠蔽(いんぺい)の話を日常的に聴くことになりますから、あまりに多くを聴き過ぎると、心にストレスが積み重なって、私自身がストレスで動けなくなってしまうという体験はしています。

 ですから、時間を限って、1日に受ける相談や対応数を調整しているということはあります。


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