選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、出血リスクを上昇させることが報告されている。カナダ・McGill UniversityのAlvi A. Rahman氏らは、心房細動患者を対象に経口抗凝固薬(OAC)単独とSSRI+OAC併用の出血リスクを検討する大規模集団ベースのコホート内症例対照研究を実施。SSRI+OAC併用で出血リスクが33%上昇したとJAMA Netw Open2024; 7: e243208)に報告した。(関連記事「SSRIと経口抗凝固薬で脳内出血リスク上昇」「SSRI服用30日以内の頭蓋内出血リスク高」)

SSRIが止血時の血小板活性を阻害する可能性

 SSRIは最も頻用されている抗うつ薬の1つで、有効性と安全性が確立されている。しかし、出血リスクをわずかに増大させることが示されており、機序としてSSRIによる止血時の血小板活性化阻害が考えられている。SSRI使用例の大半で絶対リスクは低いものの、OACとの併用例では出血リスクがより高まる可能性がある。

 そこでRahman氏らは今回、OAC単独とSSRI+OAC併用の出血リスクを比較し、使用期間に伴うリスクの変化を検討する目的で、コホート内症例対照研究を実施した。

 対象は、英国の大規模医療データベースClinical Practice Research Datalinkに登録されている医療機関約2,000施設で、1998年1月2日〜2021年3月29日にOAC〔直接経口抗凝固薬(DOAC)、ビタミンK拮抗薬(VKA)〕を新規に開始した心房細動患者33万1,305例(平均年齢73.7±10.8歳、男性57.1%)。OAC使用例、処方開始前6カ月間のSSRI使用例、処方開始前1年間の甲状腺機能亢進症罹患例は除外し、大出血の発生、死亡、登録解除、研究期間終了のいずれか早い時点まで追跡した。

 処方薬は、OACではアピキサバン、ダビガトラン、エドキサバン、リバーロキサバン、ワルファリン、SSRIではcitalopram、エスシタロプラム、fluoxetine、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリンについて確認した。

 主要評価項目は、出血による入院または死亡の発生率比(IRR)とした。

併用後30日間で出血リスク1.74倍、数カ月は注意

 平均4.6年の追跡期間中に、大出血〔国際疾病分類第10版(ICD-10)コードに基づく消化管出血頭蓋内出血、その他の大出血〕を来した4万2,190例(平均年齢74.2±9.3歳、男性59.8%)と、年齢、性、OAC処方開始日、追跡期間を1:30でマッチングした非大出血の115万6,641例(同74.2±9.3歳、59.8%、対照群)を選出し解析に組み入れた。

 検討の結果、OAC単独と比べ、SSRI+OAC併用で大出血のリスクが高かった〔調整後IRR 1.33、95%CI 1.24〜1.42〕。出血リスクはSSRI+OAC併用後30日間が最も高く(同1.74、1.37〜2.22)、その後6カ月間維持された(同1.31、1.10~1.58)。

 大出血のタイプ別に見ると、頭蓋内出血(調整後IRR 1.56、95%CI 1.32~1.85)、消化管出血(同1.38、1.24~1.53)、その他の大出血(同1.23、1.12~1.36)のいずれもOAC単独に比べSSRI+OAC併用でリスクが高かった。

 OACの種類別では、DOAC単独と比べSSRI+DOAC併用(IRR 1.25、95%CI 1.12〜1.40)で、VKA単独使用と比べSSRI+VKA併用(同1.36、1.25〜1.47)で、いずれも大出血リスクが高かった。

 研究の限界について、Rahman氏らは「観察研究であり、残留交絡因子が結果に影響を与える可能性が否定できない。また、処方箋の記録は一般医師によるもので、患者のアドヒアランスが低い場合には誤差が生じうる」と指摘。その上で、「心房細動患者が対象の大規模コホート内症例対照研究において、OAC単独に比べSSRIとOACの併用は大出血リスクの上昇と関連することが示唆された。特に開始後数カ月間は、出血リスクの注意深い監視と管理が必要だ」と結論している。

(今手麻衣)