スウェーデン・Karolinska InstitutetのWei He氏らは、同国の乳がん/がん患者のデータを集めた複数のレジストリを用いた後ろ向き研究を実施。「術後ホルモン療法と循環器系薬を併用している乳がん患者では、術後ホルモン療法を中止するタイミングで循環器系薬もやめてしまうことが多く、乳がん死だけでなく心血管疾患(CVD)死のリスク上昇につながる可能性がある。臨床医は両方の疾患リスクを視野に入れた介入を検討すべきだ」とJAMA Netw Open(2023; 6: e2323752)に報告した。

ホルモン療法中断例は循環器治療もやめてしまうのか?

 早期乳がん患者の生命予後は延長しているが、いまだ術後ホルモン療法を早期にやめてしまう人は少なくなく、He氏らは5年継続率が31~73%とも報告している(J Clin Oncol 2015;33: 2262-2269Breast Cancer Res Treat 2012; 134: 459-478)。

 乳がん患者の生命予後の改善は、併存疾患の増加という問題をもたらしている。中でも頻度の高いのがCVDで、スウェーデンにおける乳がん患者の死因の第2位はCVDである(J Clin Oncol 2011; 29: 4014-21)。

 術後ホルモン療法を中断する人と循環器系薬を中断する人の特徴に関しての報告は幾つかあるが、両者が同時に中止されているかどうかは不明である。同氏らは「術後ホルモン療法を中止する患者は循環器系薬も中止する確率が高く、したがってCVDによる死亡率も高い」との仮説を立て検証した。

 複数のがんレジストリからスウェーデンで乳がんと診断され、術後ホルモン療法と循環器系薬を同時に処方されていた女性患者5,493例(年齢40~74歳。2005年7月1日~20年8月31日に登録)のデータを抽出し、2021年11月3日~22年5月12日に解析した。

 術後ホルモン療法中止前の1年以内~中止後1年以内におけるCVDに対する治療〔循環器系薬(降圧薬、利尿薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、レニン-アンジオテンシン系薬)、スタチン、アスピリン〕の中止を主要評価項目として、ポアソン回帰分析で発生率比(IRR)を求めた。

 さらに、Cox比例ハザード回帰分析により、術後ホルモン療法中止例と継続例の原因特異的死亡のハザード比(HR)を推計した。

ホルモン療法中止例の12%が循環器治療薬も同時に中止

 5,493例の内訳は、術後ホルモン療法中止群が2,704例、継続群が2,696例で、そのうち術後ホルモン療法中止群の2,030例を解析対象とした。

 2,030例のうち248例(12.2%)は術後ホルモン療法中止と同時にCVD治療も中止していた。このタイミングでの循環器系薬中止が最も多く、IRRは197.63(95%CI 169.11~230.97)であった。ホルモン療法の種類で層別化しても一貫した結果が得られた(アロマターゼ阻害薬使用例:IRR 199.35、95%CI 162.47~247.60、タモキシフェン使用例:同 194.81、153.28~247.60)。

 範囲を術後ホルモン療法中止の1年前~1年後に広げたところ、CVD治療中止率は術後ホルモン療法中止時に比べて低下したものの、術後ホルモン療法中止前の3カ月以内のIRRは1.83(95%CI 1.41~2.37)、中止後3カ月以内のIRRは2.31(同1.74~3.05)と、やはり術後ホルモン療法中止例の方がCVD治療を中止しやすかった。

アドヒアランス不良な患者群に注意した診療が求められる

 さらに、継続群と比べ術後ホルモン療法中止群では、乳がん死リスクが高い(HR 1.43、95%CI 1.01~2.01)だけでなく、CVD死のリスクも高かった(同1.79、1.15~2.81)。

 CVD治療中止群と術後ホルモン療法中止群に共通する因子としては、マンモグラフィースクリーニング検査未受診、低収入、離婚、対症療法薬(鎮痛薬、抗うつ薬、鎮静薬など)の使用などが抽出された。

 以上の結果を踏まえ、He氏らは「術後ホルモン療法を中止する患者はCVD治療も中止する確率が高いことが判明した。これらの患者には共通する特徴も見られた。今回の知見は、実臨床において、術後ホルモン療法の中止とCVD治療の同時中止を注意深く監視することの必要性を示唆するものである」と結論している。

木本 治