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10代の人たちに知ってほしい体のこと
~「スポーツ×生理」~ 女性アスリートが語るYouTube番組「1252プロジェクト」

 「1252プロジェクト」*は、元競泳日本代表の伊藤華英さんを中心に2021年3月に立ち上げられた「女子アスリートと生理」について発信する教育プログラム。その活動の一つである、YouTube番組「TALK UP 1252」がスタートする。「女性の体とスポーツ」をテーマに、毎回多彩なゲストを招いて対談する。2021年7月7日に行われた第1回「スポーツ×生理」の収録では、伊藤さんが選手時代の体験談を交えながら、産婦人科医の能瀬さやか医師と生理における女性アスリートの状況やこのプロジェクトの目的について、熱いトークを繰り広げた。

左:伊藤華英さん 右:能瀬さやか医師

 ◇五輪でまさかの生理

 伊藤 能瀬先生、よろしくお願いします。
 「TALK UP 1252」第1回は「スポーツ×生理」ということで、私の体験からお話しします。私の現役時代は本当に生理に悩まされました。五輪出場は23歳の北京と27歳のロンドンです。19歳の時のアテネ五輪も確実と言われていましたが、選考会当日が生理期間に当たってしまったことで、精神的に不安定となり実力を発揮できず、4年後の北京五輪も8日間の全競技期間が生理と重なりました。当時、ほとんどの女性アスリートは誰にも相談することなく試合に臨んでいました。競泳という種目は体にピッタリ合う水着を着て泳がないといけない。直前にピルを服用して生理はずらせたものの、体重が5キロも増えてしまい、ニキビやむくみといった生理前の症状が出て、うつうつとした気持ちで競技本番を迎えました。決勝で敗退したのは生理のせいだけではないにしても、万全のコンディションで挑めずにいた自分にふがいなさを感じました。

 能瀬 試合に向けて月経をずらしたいという選手たちは多いのですが、 試合直前に初めて薬を使ったりすると体重が増えるなどの副作用が強く出て、コンディションを崩してしまうことがあります。直前ではなく、早い段階で対策を取るよう指導しています。生理の不快な症状が練習に影響することもあるので、年間を通して低用量ピルでコントロールしながら経血を改善させる人も増えています。

 伊藤 そうなんですね。2008年の北京では、中用量ピルで直前に生理をずらすことしかしていませんでした。

 能瀬 低用量ピルは海外ではよく知られていて多くの人が使用しています。日本でも1999年に認可されていますので、2008年には使用できたはずですが、トップ選手ですらそういう情報が入ってこなかったということですね。

 伊藤 当時、コーチにさえも相談できず情報がありませんでした。五輪前の12月に受診しましたが、婦人科の先生ではなかったので。当時の男性のコーチは月経について、太るとか血が出るとかの認識ぐらいで腹圧が入りにくいとか、メンタルが不安定になることは知らなかったと思います。

「現役時代は生理に悩まされた」と言う伊藤さん

 ◇トップ選手が月経の知識が無いことへの驚き

 能瀬 私も2012年に国立スポーツ科学センターに婦人科医として初めて診察に行ったとき、過去に2回五輪に出場した選手が、2回とも月経に当たってしまったという相談を受けました。その後、トップ選手の66%が生理をずらすことすら知らないことを知って衝撃を受けました。これは何とかしなきゃいけないと思ったのが、月経とスポーツの問題に取り組むようになったきっかけです。現在は女性アスリートを診る産婦人科の先生が増えてきて、体制は変わってきています。

 伊藤 北京五輪で、生理をずらすことは体に負荷がかかる大変なことだと思ってしまい、ロンドン五輪の時は何もしなかったです。生理中、生理前、生理後、自分がどういう時に調子がいいのかを知っておくことは重要だと思いました。

 能瀬 ほとんどの選手が月経周期とコンディションは関係があると感じていて、終わってからの方が調子いいと言う選手が多い。現在はピルの種類も増えてきて、万が一ピルが合わなくても種類を変えたり、ピル以外のホルモン製剤を服用したりして、重要な試合に向けて早めに対策することができるようになりました。

 伊藤 試合のどのくらい前から対策すればいいですか?

「早い段階での生理対策を指導している」と言う能瀬医師

 能瀬 いつからということはありません。月経痛があったり、月経前にコンディションが落ちたりとかというのはもちろんですが、水着を着ける競技やユニホームが白くて気になるというように、血が出ること自体が気になってしまう選手がすごく多いので、日常の練習にも影響が出ているんですよね。ですから自分で気になって悩んでいたら、すぐにでも受診して相談してください。

 月経は病気ではありませんが、月経痛が強い月経困難症で日常生活や練習に支障を来す場合は、明らかに治療の対象になります。月経困難症は将来的に子宮内膜症になるリスクが6倍高いというデータもあります。今はお薬の種類も増え、副作用も減ってきていろいろな対策があります。競技やレベルを問わず、トップ選手でも月経の知識を持ってない選手がたくさんいますので、10代のうちから知っておくことが大切です。

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