こちら診察室 医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ
日本初のファシリティドッグが誕生するまで 【第5回】ハンドラーの森田優子さん
ファシリティドッグ・ハンドラーの森田です。これまで当法人のハンドラーやドッグトレーナーたちがファシリティドッグの役割や効果などを伝えてきました。今回はファシリティドッグが日本に導入された当初のことを書きます。
私は日本初のファシリティドッグとなった「ベイリー」とペアを組み、日本で初めてのファシリティドッグ・ハンドラーとして活動してきました。
ハワイで出会った直後のベイリーと森田さん
◇日本での活動を始めるまで
私がハンドラーになろうと思ったきっかけは、小児病院で看護師をしていたとき、「入院中の子どもたちの楽しみになることがもっと多ければいいのに」と感じていたことでした。ちょうど「ファシリティドッグ」という、病院で働く犬を日本に導入しようと動いている団体があり、小児科経験のある看護師でハンドラーになる人を探しているという話を聞きました。「毎日病院に犬が来るなんて、入院中の子どもたちの生活はどれだけ変わるだろう!」とわくわくし、是非やりたいと思いました。
ハンドラーに選ばれ、米国ハワイ州にある、介助犬やファシリティドッグなどの働く犬を育てている「アシスタンス・ドッグス・オブ・ハワイ(※)」に研修を受けに行きました。そこではハンドラーになるための勉強を一から始めます。2週間の研修の最後には、ハワイのこども病院で現役で活動しているファシリティドッグに付いて、ペアを組むことになったベイリーと一緒に患者さんを訪問する練習もしました。
そのファシリティドッグは、院内のどこでも当然のように入っていきます。ICU(集中治療室)にも入り、患者さんとベッドで寝ていました。その姿を見て、「自分も日本に帰ったらそのように活動するのだ」とイメージしました。
◇活動開始当初は
しかし、実際に活動を始めると、そのイメージ通りにはいきませんでした。「犬は家族の一員」という考えで共に暮らしてきた歴史の長い米国と違い、日本では2000年ごろまで家の外で飼う人が大部分で、その理由も「家族」ではなく「番犬」が多かったと言われています。そのため、犬に対する考え方も文化も違ったのです。
ベイリーとの活動を開始したものの、病棟の中まで入れるのは1棟だけ。他の病棟にいるベイリーに会いたい患者さんは、家族の責任の下、病棟外の廊下にある面談室まで出てこないと会うことが許可されませんでした。そして、医療スタッフの一員として平日は毎日勤務する予定だったのに、週3日、しかも半日しか病院に来られませんでした。ハワイの病院で見たファシリティドッグとの違いに焦りを感じつつも、「今できることをやっていこう」と思いながら数カ月が過ぎました。
集中治療室にも入るきっかけを作ってくれた男の子とベイリー
◇患者や家族の声に応え、活動広がる
ある日、ベイリーの活動を応援してくれる看護師が「今、〇〇ちゃんが処置室で採血しているから、応援に行ってあげて」と声を掛けてくれました。処置室に向かうと、ベイリーのことが大好きな女の子が泣いていました。その子は病気の影響で目が見えなくなってしまい、採血に対して強い恐怖心があり、いつもパニックになってしまっていました。
「隣にベイリーがいるからね」と言って、その子の手を取り、ベイリーの首に触れるようにして採血を始めたら、落ち着いて実施できました。この時のことは、14年たった今でも忘れられません。ベイリーはすごい力を持っていると、実感しました。
そのうち、中まで入れなかった病棟の子どもたちやご家族から「どうして私たちの病棟にはベイリーが来ないの?」という声が出てきました。その声に押されるように、これまで許可が出ていなかった病棟も、プレイルームまで入れるようになり、病室へと進み、さらにベッドでの添い寝や、処置の付き添いも依頼されるようになっていきました。
白血病などの病気の子どもたちは治療中に「骨髄穿刺(せんし)」という骨盤に針を刺す検査や、背骨の間に針を刺し、薬液を注入する「髄注」という処置を何度も行います。それらの処置は、あらゆる感染を防ぐため、とても清潔に行わなければなりません。
そのような場面にも、ベイリーは付き添いができるようになりました。繰り返す処置や処置室の雰囲気が怖くて自分では入れなくなり、薬で眠らせてから運ばれていた子が、べイリーと一緒なら自分の足で入れるようになりました。
「怖いけど、ベイリーが一緒なら頑張る」「ベイリーの目を見ると安心する。君の瞳には魔法の力があるよ」と言う子もいました。手術を受ける子どもとは手術室まで一緒に向かい、麻酔で眠るまでそばいることもできるようになりました。
治療について、周囲の人が無理矢理やらせるのではなく、自分から「よし、やろう!」と決断できるようになることは、治療を自分の事とし、前向きに捉える上で、とても意味のあることです。
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(2025/01/10 05:00)
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