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あなたに合う眼内レンズは?
~白内障手術でやって良い・悪いこと~ 【第7回】

 白内障手術で用いる眼内レンズにはさまざまな種類と度数があります。若い頃から現在までの目の見え方、眼鏡コンタクトレンズの使用状況、仕事や家事を含めた日々の暮らし、見えるようになったらやりたいことなどを踏まえて選択すれば、手術後は快適な生活が送れる可能性が高いと考えます。一方で、これらを十分に考慮せず、何か一つだけにこだわり過ぎたり、医師に言われるがまま手術を受けたりすると、自分の想像とは全く異なってしまう場合もあります。今回は単焦点レンズを中心に良い選択と悪い選択を紹介します。

 ◇焦点距離と見える範囲

 本題の前に、手術後に鮮明に見たい距離(焦点距離)と、その距離に合わせたときにどの程度手前まで見えるかについて説明します。 

 第4回で触れたように、単焦点レンズにも老視矯正レンズにも焦点深度(ピントが合う範囲)というものがあります。 老視矯正レンズの場合には遠方から近く(それぞれのレンズによって距離は異なる)までピントが合うのが特徴です。

焦点距離と焦点深度の関係

焦点距離と焦点深度の関係

 一方、単焦点レンズはその範囲が比較的狭くなります。例えば、焦点距離を遠くに設定する場合、見えるのは遠方から1メートルまで。焦点距離が2メートルなら70センチまで、1メートルなら50センチまで、70センチならおよそ40センチまで、40センチだと30センチまでピントが合い、それより手前は見えづらくなります。

 これを踏まえ、焦点距離によって視力検査の値がどの程度変化するかを知っておいてください。あくまでも平均値ですが、焦点距離が遠方だと視力は1.0、2メートルだと0.8、1メートルの場合は0.4、70センチで0.3、40センチでは0.1となります。

 少し難しいかもしれませんが、特に単焦点レンズの焦点距離と焦点深度を理解することが、手術後の目の見え方を医者任せにしない重要なポイントです。

 ◇単焦点レンズ選択のポイント

 ここからは、単焦点レンズの望ましい選択について考えてみます。視力や眼鏡・コンタクトの利用実態別に5類型に分けて説明します。

 (1)老眼鏡のみ使用

 若い頃は目がよく見え、ある程度の年齢になってから老眼鏡などを使うようになった方は、手術後の裸眼視力1.0~1.5を狙うとよいでしょう。老眼は残るものの、想像していたよりは近くも見える感覚を得られます。近くや中間距離がよく見えるようにしたいと考える方もいますが、逆に遠くの視力が明らかに低下してしまうので、少なくとも焦点距離を2メートル以内にするのは避けた方が無難です。例外として、基本的に外出せず、屋内生活が主となっている場合には、2~3メートル程度に合わせた方が便利なこともあります。

 また、モノビジョン法といって、片目を遠く、もう一方の目を近くに合わせて、遠くも近くも見えるようにするやり方を勧められる場合があります。しかし、モノビジョン法は立体感や遠近感がつかみにくく、向き不向きがあります。自分に合うかどうかはギャンブルに近く、避けた方がよさそうです。

 (2)軽い近視

 後述の(3)も同様ですが、近視の方に対し、医師の多くは「今まで通りに近視を残した方がよい」と勧めます。遠くは眼鏡で、近くは裸眼で見ていた場合には、焦点距離を40~50センチ程度にすると、手術前に似た眼鏡の使い方でより明瞭な見え方を実現できます。ただ設定次第では、デスクトップパソコンが裸眼で見えないといった不都合が生じ得るので注意が必要です。

 一方、普段から遠近両用の眼鏡・コンタクトを使用し、裸眼で近くを見ることがあまりない場合には、基本的に近視を残さなければならないわけではありません。言い方を変えれば、老眼のため近くが見えにくいと自覚している方は、焦点距離をどこに合わせても特に問題はありません。40センチ~2メートル程度の焦点距離の中から、生活に最も便利な距離がどこなのかをしっかり相談しながら決めましょう。

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