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睡眠時間が短くても寿命は長い!? 第1回

 睡眠時間と寿命の関係について話しますと、まず大きな誤解があるようです。ずばり言うと、「睡眠時間が短いと寿命が短くなる」という思い込みです。下の図をご覧下さい。

 この図は、NHKが5年ごとに調べている日本人の睡眠時間と、厚生労働省が毎年調べている平均寿命を重ね合わせたものです。黒丸が平日の睡眠時間で、赤と青の線が男女の平均寿命です。縦軸は睡眠時間で横軸が調査をした年です。

 この図を見ると、1970年からどんどん睡眠時間が短くなっていることが分かります。女性の平均寿命の赤い線も、男性の平均寿命の青い線も右肩上がりになっていて、男女とも平均寿命がどんどん長くなっています。

 つまり、睡眠時間が短くなっても平均寿命はどんどん伸びていることが分かります。もちろん、過労死になるような極端な短時間睡眠を続けていれば、事情は別です。これらの結果から、通常の生活を続けていれば、「無理に長く寝る必要はない」ということが見えてくるのです。

 ◇無理に睡眠時間を長くする必要はない

 この傾向は日本だけではありません。この図は、世界で先進国とされているOECD加盟国の2006年段階での睡眠時間と平均寿命の関係を示したものです。縦軸が寿命で横軸が睡眠時間です。平均寿命は、その国の医療体制の整備度合いや公衆衛生体制の強弱などを支える経済状況に影響されますので、長期間経済状況が安定している旧西ヨーロッパと北米、オセアニア、日本のみを選んで関係を見ています。

 大まかにいうと、平均寿命は睡眠時間が一番短い日本が一番長く、睡眠時間が比較的長い米国が一番短くなっています。赤の点線は全体の傾向を示す近似直線で、図の左下には算出に使った近似直線の数式と決定係数、強い相関性を表す「有意確率」を示しています。
 統計学的にこの図を分析すると、睡眠時間が短い国の方が寿命が長く、睡眠時間が1時間長くなると寿命が約2歳短くなることが見えてきます。つまり、これは「日本は無理やり睡眠時間を長くする必要はない」「睡眠時間が短くても寿命は短くならない」と言えるデータなのです。ですから、一部の過労死ラインまで来ているような長時間労働をしている人以外には、これ以上睡眠時間を長くしたりする必要はないことになります。(了)

遠藤医師の睡眠講座

 遠藤 拓郎(えんどう たくろう)
 スリープクリニック調布院長。米スタンフォード大学医学部客員教授。1987年東京慈恵会医科大学卒業。後、米スタンフォード大、スイス・チューリッヒ大、米カルフォルニア大へ留学。帰国後東京慈恵会医科大助手などを経てスリープクリニックを開業し、不眠症治療に携わる。その一方で 慶應義塾大学医学部特任教授を経て2023年より現職。睡眠や不眠症に関する著書多数。近著に「最強の昼寝法 ~日本人の処方箋~」(扶桑社)。YouTubeでも情報発信。


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