新型コロナウイルス感染症の重症化メカニズムを解明
国立大学法人千葉大学
1型インターフェロンに対する自己抗体が免疫力低下をもたらす
千葉大学病院(病院長 大鳥精司)は、千葉大学大学院医学研究院 免疫発生学(中山俊憲前学長、平原潔教授、岩村千秋特任講師、青木亜美前助教ら)および当院の前病院長である横手幸太郎学長が、2020年7月から取り組んでいる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化メカニズムを解明する臨床研究の成果が、このたび国際医学雑誌「Journal of Clinical Immunology」誌(米国東部標準時間4月22日付)のオンライン版に掲載されましたので、ご報告いたします。 本臨床研究は、当院並びに千葉県内の7つの協力病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、藤田医科大学病院において、研究への参加に同意した患者さんよりご提供いただいた血液検体を用いて進められました。
今回、明らかになったこと
1型インターフェロン(ウイルス感染細胞から産生されるタンパク質で、周囲の細胞に作用することで抗ウイ
ルス活性を引き起こす)に対する自己抗体を持つ人は、これまでごく一部の希少疾患の患者さんのみと考えられてきましたが、本研究で、その想定を超えて存在することがわかりました。
1.COVID-19に罹患された中等症II以上の患者さん(治療のために酸素投与を必要とした)のうち、およそ
10%の方が1型インターフェロンに対する自己抗体を保有していた。
2.治療により回復された患者さんでも、1型インターフェロンに対する自己抗体は体内に残っていた。
3.これらの患者さんでは、1型インターフェロンによって引き起こされるはずの免疫反応が低下していた。
4.これらの患者さんでは、新型コロナウイルスに対する抗体をつくる細胞が減少していた。
5.自己抗体は1型インターフェロンとその受容体の結合を阻害する可能性が示唆された。
研究者コメント(今後の展望)【免疫発生学 平原潔教授(左)・岩村千秋特任講師】
1型インターフェロンはCOVID-19以外のウイルス感染防御に必須のタンパク質であることから、自己抗体の有無を知っておくことは、さまざまなウイルス感染に対する予防や治療に有用であると考えられます。今後、企業と連携し、1型インターフェロンに対する自己抗体の測定システムを開発することにより、マススクリーンニング検査体制を樹立し、ウイルス感染症予防のための社会基盤の確立を目指します。
研究の結果
図1. 中等症II以上のCOVID-19患者さんの中には、1型インターフェロンに対する中和能をもつ自己抗体を保有する方が61例のうち7例の方(11.4%)存在していた。
図2. 治療により症状が改善した方でも、1型インターフェロンに対する自己抗体は維持されたままであった。
図3. 自己抗体保有者では血液細胞での1型インターフェロンによって引き起こされる免疫応答が低下していた。
図4. 自己抗体保有者ではSARS-CoV-2特異的な抗体産生細胞の数が減少していた。
図5. 自己抗体の1型インターフェロンにおける結合部位を同定した。
発表論文の詳細
Suppression of type I Interferon signaling in myeloid cells by autoantibodies in severe COVID-19 patients, Journal of Clinical Immunology, 2024; 44 (104). doi: 10.1007/s10875-024-01708-7.
研究体制
本臨床研究は、当院および以下の7つの協力病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、藤田医科大学病院において、研究への参加に同意した患者さんよりご提供いただいた血液検体を用いて進められました。
〈協力病院〉
国保旭中央病院、船橋中央病院、成田赤十字病院、東千葉メディカルセンター、船橋市立医療センター、
君津中央病院、千葉医療センター
研究経費
本研究は、以下の支援で行われました。
・国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のウイルス等感染症対策技術開発事業における研究課題「新 型コロナウイルス感染症における重症化の早期予測判定システムの開発」(研究開発代表者:中山俊憲)
・免疫アレルギー疾患実用化研究事業における研究課題「新型コロナウイルス感染症で血管炎を誘導する新たな病的免疫細胞集団の同定と病態形成機構の解明」(研究開発代表者:平原潔)
・革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」における研究課題「気道組織における病的リモデリング(線維化)機構の解明と病態制御治療戦略の基盤構築」(研究開発代表者:中山俊憲)
・革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ(AMED-CREST)「免疫記憶の理解とその制御に資する医療シーズの創出」における研究課題「外部環境刺激による組織炎症記憶形成機構の解明と難治性アレルギー性疾患の病態制御治療戦略の基盤構築」(研究開発代表者:平原潔)
・公益財団法人武田科学振興財団ハイリスク新興感染症研究助成における研究課題「新型コロナウイルス感染症における血管病変を中心とした重症化メカニズムの解明と新規バイオマーカーによる治療戦略の樹立」(研究代表者:岩村千秋)
・日本感染症学会臨床研究促進助成「抗I型IFN抗体に着目したCOVID-19診療ストラテジーの構築」(研究代表者:青木亜美)
・千葉大みらい医療基金ほか
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1型インターフェロンに対する自己抗体が免疫力低下をもたらす
千葉大学病院(病院長 大鳥精司)は、千葉大学大学院医学研究院 免疫発生学(中山俊憲前学長、平原潔教授、岩村千秋特任講師、青木亜美前助教ら)および当院の前病院長である横手幸太郎学長が、2020年7月から取り組んでいる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化メカニズムを解明する臨床研究の成果が、このたび国際医学雑誌「Journal of Clinical Immunology」誌(米国東部標準時間4月22日付)のオンライン版に掲載されましたので、ご報告いたします。 本臨床研究は、当院並びに千葉県内の7つの協力病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、藤田医科大学病院において、研究への参加に同意した患者さんよりご提供いただいた血液検体を用いて進められました。
今回、明らかになったこと
1型インターフェロン(ウイルス感染細胞から産生されるタンパク質で、周囲の細胞に作用することで抗ウイ
ルス活性を引き起こす)に対する自己抗体を持つ人は、これまでごく一部の希少疾患の患者さんのみと考えられてきましたが、本研究で、その想定を超えて存在することがわかりました。
1.COVID-19に罹患された中等症II以上の患者さん(治療のために酸素投与を必要とした)のうち、およそ
10%の方が1型インターフェロンに対する自己抗体を保有していた。
2.治療により回復された患者さんでも、1型インターフェロンに対する自己抗体は体内に残っていた。
3.これらの患者さんでは、1型インターフェロンによって引き起こされるはずの免疫反応が低下していた。
4.これらの患者さんでは、新型コロナウイルスに対する抗体をつくる細胞が減少していた。
5.自己抗体は1型インターフェロンとその受容体の結合を阻害する可能性が示唆された。
研究者コメント(今後の展望)【免疫発生学 平原潔教授(左)・岩村千秋特任講師】
1型インターフェロンはCOVID-19以外のウイルス感染防御に必須のタンパク質であることから、自己抗体の有無を知っておくことは、さまざまなウイルス感染に対する予防や治療に有用であると考えられます。今後、企業と連携し、1型インターフェロンに対する自己抗体の測定システムを開発することにより、マススクリーンニング検査体制を樹立し、ウイルス感染症予防のための社会基盤の確立を目指します。
研究の結果
図1. 中等症II以上のCOVID-19患者さんの中には、1型インターフェロンに対する中和能をもつ自己抗体を保有する方が61例のうち7例の方(11.4%)存在していた。
図2. 治療により症状が改善した方でも、1型インターフェロンに対する自己抗体は維持されたままであった。
図3. 自己抗体保有者では血液細胞での1型インターフェロンによって引き起こされる免疫応答が低下していた。
図4. 自己抗体保有者ではSARS-CoV-2特異的な抗体産生細胞の数が減少していた。
図5. 自己抗体の1型インターフェロンにおける結合部位を同定した。
発表論文の詳細
Suppression of type I Interferon signaling in myeloid cells by autoantibodies in severe COVID-19 patients, Journal of Clinical Immunology, 2024; 44 (104). doi: 10.1007/s10875-024-01708-7.
研究体制
本臨床研究は、当院および以下の7つの協力病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、藤田医科大学病院において、研究への参加に同意した患者さんよりご提供いただいた血液検体を用いて進められました。
〈協力病院〉
国保旭中央病院、船橋中央病院、成田赤十字病院、東千葉メディカルセンター、船橋市立医療センター、
君津中央病院、千葉医療センター
研究経費
本研究は、以下の支援で行われました。
・国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のウイルス等感染症対策技術開発事業における研究課題「新 型コロナウイルス感染症における重症化の早期予測判定システムの開発」(研究開発代表者:中山俊憲)
・免疫アレルギー疾患実用化研究事業における研究課題「新型コロナウイルス感染症で血管炎を誘導する新たな病的免疫細胞集団の同定と病態形成機構の解明」(研究開発代表者:平原潔)
・革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」における研究課題「気道組織における病的リモデリング(線維化)機構の解明と病態制御治療戦略の基盤構築」(研究開発代表者:中山俊憲)
・革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ(AMED-CREST)「免疫記憶の理解とその制御に資する医療シーズの創出」における研究課題「外部環境刺激による組織炎症記憶形成機構の解明と難治性アレルギー性疾患の病態制御治療戦略の基盤構築」(研究開発代表者:平原潔)
・公益財団法人武田科学振興財団ハイリスク新興感染症研究助成における研究課題「新型コロナウイルス感染症における血管病変を中心とした重症化メカニズムの解明と新規バイオマーカーによる治療戦略の樹立」(研究代表者:岩村千秋)
・日本感染症学会臨床研究促進助成「抗I型IFN抗体に着目したCOVID-19診療ストラテジーの構築」(研究代表者:青木亜美)
・千葉大みらい医療基金ほか
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(2024/05/17 13:00)
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